医療コラム

 

B型肝炎訴訟について思うこと

 

テレビで頻繁にB型肝炎訴訟が取り上げられています。

賠償金は病状にもよりますが最大で数千万円におよびます。

 

当院においても多数の肝炎患者さんがおられるため、問い合わせを受けることも多く、忙しい診療のさなか、説明に多くの時間がさかれ、書類作成のための特殊検査を追加するなど多大な負担が強いられています。

 

給付の対象は過去のワクチン接種の際の注射器の使い回しによる感染拡大により感染された方で、現時点において慢性肝炎、肝硬変、肝癌に罹患されている方たちです。

 

ところが、10年以上も前に肝炎に罹患した既往はありますが、現時点では完全に治癒しており、何ら医療負担の生じていない方でも、賠償金を獲得している方がおられます。

 

また、母児感染、家族内感染は賠償の対象にはなっていないにもかかわらず、すでに賠償金を受け取っておられる方もいて、制度的に穴が多いように思われます。 法律事務所の申請書類には母児感染の可能性に関しての記載事項がなく、意図的に外されているようにも思われます。

 

B型肝炎に持続感染されている方は、生涯にわたり医療負担が生じますが、これについては治療にあたっての給付金制度がすでに確立されています。

 

B型肝炎がこれほどまでにてあつい保証が受けられるのであれば、さらに費用のかかる1型糖尿病、難治性の関節リウマチ、各種の癌などについても高額医療の補助をもっと手厚くしてもよいのではと思ってしまいます。B型肝炎にはすでに有効な治療薬がありますが、治療法が確立されていない難病も多数存在します。

 

一方で国策としてB型肝炎の保証を積極的に行うというのであれば、訴訟という手続きをとらなくても、公平公正で適切な医療機関がきちんと判定すれば、補助が受けられる制度にすることも可能と思われます。

 

訴訟という手続きのため、弁護士費用には得られた保証金の15%もが摂られてしまうのです。法律事務所にとってはまさしくぼろ儲けです。そして、それらの費用は当然のことながら、国民の税金から支払われているのです。

法律事務所は初期費用はかからない、賠償金がもらえた時に費用をいただけたらよいので、とりあえず手続きしてみましょうというようなスタンスで、どんどん勧めているようです。

個人での訴訟というのは難しいので、手続きは弁護士に頼らざるを得ないのですが、このスタンスはいかがなものかと疑問に思います。

 

テレビのCMをみるたびにモヤモヤとした気分になります。

この制度のいきさつには様々な事情があるのかもしれませんが、弁護士費用は高すぎますよね、医療機関は書類作成に数万円程度で協力しているところがほとんどだと思います。

 

ある患者さんとこの話題になったとき『私は母児感染とわかっているので、不正をしてまで賠償金を受け取ったりする気持ちはありません。』とキッパリいわれました。

 

忙しい診療中に、すがすがしい気分になりました。

 

2020/1/15

 
高齢者に『もっと水をのみなさい』『塩分は極力控えなさい』の多くは誤解に基づいた間違いです。

 

特に夏場などに『熱中症・脱水医の予防に水分を積極的におとりください。』という喧伝がメディアを中心に頻繁になされています。

 

一方で『日本人は塩分を12gも摂っている、理想の塩分量は6gです。塩分が多いと血圧が上がります。心臓に負担となります。腎機能にも悪い影響があります。塩分は極力控えましょう』と指導されています。

 

これは本当に正しいのでしょうか?

 

ラーメンを1杯食べてしますと6g、塩鮭を食べると6g、味噌汁には1.5g、梅干しにも1.5gほどの塩分が含まれています。6gどころか一般人は12gくらいの塩分を摂取しているのが現状です。6gなんてほとんど無理な話なのです。

 

人間の体のなかにある水分は、『細胞内』『細胞外の間質と呼ばれる部分』そして『血管内に血球とともにながれる血液の成分』として分布します。

 

血管内の体液が不足すると循環が保てなくなり、血圧が下がり、ふらふらとなります。腎機能をはじめとした臓器機能が低下します。

 

逆に血管内の循環血液量が増えてしまうと、心臓がアップアップとなります。心機能が悪い場合には心不全で息が苦しく動悸がするようになります。また、腎臓が体液を処理できないと、体液は間質から細胞内へと移行していきます。

 

血管外に体液が漏れ出るとむくみとなります。足がむくむ程度であればよいのですが、肺や消化管など内臓臓器まで浮腫んでしまいます。細胞内にも水が移行して膨化してしまうと、内蔵機能が低下してしまいます。

 

マラソンなのでヘトヘトになり脱水でのびてしまったとき、このときは血管内の体液が失われているので血圧が維持できなくなっています。そのときは生理的食塩水による治療が必要です。浸透圧の関係で血管内のボリュームを維持するには血液と同じ浸透圧である生理的食塩水が必要なのです。同時にカリウムなどの失われている電解質も補充します。エネルギーの補充に少量の糖質も付加されます。

 

このときにもしも純粋な水のみを補充したとしたらどうなるでしょうか?

 

水は血管内にとどまるのではなく、血管外に漏れ出て間質や細胞内にも均等に分布していきます。となると、大量の水を補充したとしても目の前の血管内のボリュームを回復させたいという目的は果たせなくなります。

 

テレビで水分をとれ、一方で塩分を控えろという話が繰り返し流され、本人のみでなく、ご家族が1時間ごとに水を飲ませるという事態が生じています。

 

その場合、脱水の予防には多少は役立ちますが、極端にすると血中のナトリウムが薄まってしまい、体液は間質および細胞内へと移動して体がむくんでしまいます。そして内臓の浮腫にともない、内蔵の機能が低下してしまいます。

 

血液検査での低ナトリウム血症というのは生命予後に関して非常によくないのです。

 

かといって薄まった塩分を補うために、塩分を多く摂ってしますと、循環血液量が増えて心臓や腎臓の負担となり、高血圧や心不全の悪化につながります。

 

一体どうしたらよいのでしょうか?

 

若干、難しい話になっておりますが、水分摂取の励行はほどほどにということと、塩分制限もほどほどにというのが正解です。何事においてでもですが極端はいけません。また、患者さんの心機能や腎機能によってもそのバランスは微妙に異なってきます。

 

この辺を理解していない医療従事者が不適切な指導を行っていることが多いです。また、一般の方のお節介な知ったかぶりにも要注意です。自信満々に間違った持論を展開されているのをよく耳にします。

 

納豆が体によいとなるとスーパーから納豆が消え去ってしまうとか、日本人は流されやすい傾向にあります。気をつけましょう。

 

特に利尿剤を処方されている方などは、どちらに転ぶか、なかなか難しい局面があります。

血液検査でナトリウムが下がっていないか、心不全のマーカーであるBNPを測定して、心臓に負担がきていないか、BUN/Crにて腎機能は大丈夫かなどしっかりと見ていかなければなりません。

 

自宅でできるチェックとしては、口渇がないか、舌が乾いていないか、顔や足が浮腫んでいないか、労働作業時の呼吸が苦しくないか、血圧が高くないか・低すぎないか、体重が増えてきていないか、急に減ってきていないか、尿はきちんと出ているかなどにて異常が察知できます。

 

このような症状の有無についても医師にはしっかりと伝えましょう。

 

ところが、聴診しない医師、手足を診ない医師、最悪ですね・・・

電子カルテと向き合い顔すら見ない医師も増えています。

大変心配ですね。気をつけましょう。

 

2019/11/11

『大丈夫です』・・・何がどう大丈夫なの?

来院時に血圧が高くなることはしばしばあります。寒い日などやあわててきたときにたまたま上がってしまうことはよくあります。しかしながら、毎度毎度高い方は院内だけで高くなる白衣高血圧というよりは、なにかのおりにしょっちゅう血圧が上昇しているのだといえます。
その場合、短期的には脳出血の危険が大きいですし、長期的には動脈硬化が進行し、脳梗塞、心筋梗塞
、心不全、腎不全など重大な合併症が生じます。

これらは何の前兆もなく、その瞬間までピンピンしていた方にも生じます。
芸能人やスポーツ選手の突然死の話は、記憶に新しいのではないでしょうか?
血圧が高いと脳血管が破れて脳出血を生じることがあります。また、脳血管や大動脈に動脈瘤ができてそれが破裂すると急死してしまいます。
急性心不全と公表されているものは多くは心筋梗塞に伴う不整脈なのではないかと思います。

血圧だけでなく、血糖が高い方、悪玉コレステロールが高い方、骨密度が急激に減少してきている方など、治療介入が必要な方がしばしばみられます。

主治医としては病態や放置した場合の重大な結末などについて時間をかけて説明し、何度か評価を繰り返したのちに治療方針を立てていきます。

生活指導を行い十分に経過を見たうえで『これはもう薬を始めないと無理ですよ。』ということも当然ございます。

ところが、『骨粗鬆症が急激に進行してますね。』などと説明をはじめようとした矢先に『大丈夫です!!』なんて言葉が返ってきて早々と立ち上がろうとする方がおられます。
『この医者は薬を出したがっている、薬なんか飲むものか』ていうかんじですね。

何がどう大丈夫なのか?? このままじゃ背中がまがって、背がちじまってしまいますよ・・・ちよっと転んだだけで骨折してしまうのですよ!

いまだに医者は薬を出してもうけている、だから薬を出したがるなんて思い込んでいる方がいるんですね・・・

薬を追加しても医院での医療費(処方箋料)は変わらないんですよ。(薬局での薬剤費は当然増えますが)、また、7種類以上の薬剤を処方すると減点されるという変な制度もあり、あえて薬を出したいなんてことはないんです。

薬を出すに際して説明・説得することは上記のように大変です、カルテにはかならず対応する病名を記載しなくてはなりません、処方箋作成にもルールがあり、なれていても時間がかかりかなり面倒です。薬一つ出すだけでとても手間がかかるんです。

患者さんがいろいろ訴えても、知らんぷりの先生方が多いのわかりませんか?
薬を処方して収益が増えるということではないので、関心のないことに時間をかけたくないんでしよう!  こんな医者にはかからない方がよいですね。

薬が危険ということもありません。きちんと勉強し経験豊かな医師が処方したものはまず大丈夫です。過敏症など体に合わないということはまれにはありますが、副作用には十分に注意して経過を見ていきます。
低俗週刊誌の記事は全くのでたらめですので、真に受けないでください。

もしあなたやその家族が病気で倒れた時、『残念ながらこの病気にはまだ治療法がないのです。』といわれたら、『何か薬はないのですか?手術はできないのですか?』となりますよね。

ところが確立された良い治療法があるにも関わらず治療を受けようとしない人たち・・・
頑固一徹でなにをいっても聞く耳持たずです。

わかってくれるまで辛抱強く待つことも医師の仕事ですが、間に合わなくなってしまうこともありますよね。

わたしの敬愛するセンベイさん(仮名)も血圧の薬を飲まないと言い張っています。
わたしは大変心配しています。

2019/8/29



 

心血管病のリスク評価と最適治療

心血管病とは簡単にいうと狭心症、心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳血管障害のことであり、特に冠動脈硬化をいかに予防していくかという点に注目されています。

リスク評価として悪玉コレステロールであるLDL-Cの高値以外に、以下の危険因子がいくつあるかにより治療目標が変わってきます。男性45歳以上、女性55歳以上、高血圧、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、低HDL血症(<40mg/dl)のうち、3個以上のリスクに当てはまると10年で10%の方が心血管病を発症し治療を要するようになります。
 
特に糖尿病については、10年で10%の心血管病が発症し、10年短命であることがわかっており、その死因の30%が心血管病です。
糖尿病にはいたっていない耐糖能異常や食後高血糖も動脈硬化の大きな促進因子です。

また、メタボリック症候群も2倍のリスクがあるとわかっています。
糖尿病とメタボリック症候群の合併では、なんと5倍の発症率でした。
食事療法と運動療法は極めて大事であり、リスクが3個以上の場合にはスタチン(リピトールなど)により積極的にLDL-Cを低下させる治療を行う必要があります。
リスクが1-2個の場合はどうでしょうか?
この場合の発症率は3%程度です。さらなるリスク評価をおこない患者さんを選別していく必要があります。

動脈硬化の進展は慢性炎症との関連が示唆されており、高感度CRPが0.2mg/dl以上の場合にリスクが高くなります。クラミジア感染、ヘリコバクターピロリ感染、歯周病などの慢性持続感染が動脈硬化を引き起こす悪い物質(サイトカイン)を出していると示唆されています。

尿中アルブミン、腎機能(eGFR)もリスク評価に役立ちます。微量アルブミン尿は血管内皮細胞の障害と関連しているからです。
 
画像評価として優れているのは、なんといっても頚動脈エコーです。頚動脈にプラークが付着していれば、積極的な治療が必要であり、プラークがなくても内膜中膜複合体が1mm以上に肥厚していたらリスクが大きいといえます。
 
胸部CTでの冠動脈石灰化も有用です。冠動脈の石灰化は動脈硬化による冠動脈の破綻のあとであり、たまたま血管がつまらなかっただけで、大変危険なのです。
冠動脈のCTは直接造影に劣らぬくらい鮮明に狭窄がわかります。
 
さらに脳MRI,頚動脈MRIによる脳血管、頚部血管の評価、腹部エコーによる脂肪肝、内臓脂肪、大動脈硬化などもリスク評価として行っております。心エコーによる心機能評価も有用と考えています。
 
以上のように危険因子が3個以上では積極的に治療、1-2個の場合はさらなる検査、画像診断によりリスクを評価して治療にあたります。
 
治療はスタチン(リピトール・リバロ・クレストールなど)によりLDLを低下させることで、LDLは低ければ低いほどよいとされています。
正常上限の140以下にすることはもちろんですが、100以下であればさらに好ましく、実際に動脈硬化が進展している方などは70位まで下げてあげる必要があります。
たとえ、治療前のコレステロールが高くない場合でも、LDLを下げる必要があり、LDL低下療法は脂質異常症の治療というよりは、動脈硬化の治療といえます。
 
そしてリスクの高い場合や頚動脈にプラークが存在する場合はバイアスピリンなどの抗血小板薬の併用を行います。
 
冠動脈内超音波検査ではスタチンの投与によりプラークの退縮が確認されており、単に予防ではなく、治療としても有効です。
 
スタチンの投与によりLDLが下がると治療をやめたがる方がおられますが、服薬をやめると元の自分に戻ってしまいます。LDLがさがったら、喜んで継続していればよいのです。
副作用に筋肉痛が強調されてしまい、少し肩が痛いなどの理由で服薬をやめてしまう方がおられますが、副作用としての横紋筋融解症は極めてまれであり心配ありません。筋肉痛はたまたま日常生活のなかで生じたものであり副作用ではないのです。

一度心血管病を発症してしまった方に2次予防としてしっかりと治療を行なうことにより、再発は5年間で2%に抑えられています。

スタチンによる積極的な動脈硬化治療は非常に重要であり、一般の方への広い理解が求められます。

また、禁煙は非常に重要であり、どうしても禁煙できないニコチン依存症の方については禁煙外来にて禁煙のサポートを行います。
 
当院では毎日、頚動脈エコー検査を施行しており、適切な診断に基づき、スタチン、バイアスピリンなどの積極的な治療が展開され、重症の心血管病はほとんど発症しておりません。



 

ピロリ菌についての誤解を解く

ある新聞に以下のような記事が掲載されました。『ピロリ菌と胃がんの発生とは密接に関連しており、50歳以上の感染者は10%が胃がんになるが非感染者が胃がんになる確率は0.1%である。ピロリ菌が胃がんの主病因なら除菌が最良の予防法となるだろう。』とここまでは正しいのですが、そのあとが問題でした。『健常者に除菌を行うと胃壁がかたくなり、収縮しなくなる、胃酸がどんどん出て食道に逆流し食道の粘膜が胃の粘膜に代わるバレット食道ができてしまう。最近、若い人に逆流性食道炎が多いのはそのためである。』というような論調でした。
 
これは全く間違いです。この記事を書いた人たちはご自分で胃の中を観察したり、患者さんのお話を聞いたことがあるのかと疑問に感じます。
 
私は本邦で健康保険の適応のない時期から1万人近い患者さんに除菌を行ってきましたが、そもそも健常者に除菌を行うということはありません。また、その後にひどい逆流性食道炎に悩まされたという症例は1例のみです。
 
除菌後はそれまでさんざん悩まされてきた胃潰瘍、十二指腸潰瘍の再発はほとんど見られなくなり、胃がんの発症もほとんどありません。逆に新規に胃がんが発見された場合、そのほとんどはピロリ菌が陽性でした。
 
私自身は潰瘍もちではなかったのですが、いつも胃がもたれて、しょっちゅう胸が焼けて苦しい思いをしていました。しかし、除菌後は胃はすっきりで何でもおいしく食べられるようになりました。胸やけのある人の除菌は慎重にということになっておりますが、胸やけに対しても除菌療法は有効です。胃の動きはよくなり快調になるのです。組織学的にも胃壁に大量に浸潤しているリンパ球の消退が確認されており、炎症がとれるのですから胃壁が固くなるなどということはありません。こんなことは常識から考えてもわかることです。胃が元気になり本来の胃酸分泌による消化機能が高まるものですから、一部の方に逆流性食道炎が生じるのです。この場合も、刺激物を避ける、大食いをしない。食べてすぐに横にならないなどの対応と一時的な制酸剤の投与で収まります。
 
若い人の逆流性食道炎が増えているのは、食生活の欧米化による脂肪摂取過多、忙しい生活で夕食後にすぐに寝てしまう、運動不足などが原因であることは広く知られており、除菌療法をそこに持ってくるのは根本的に間違っています。
 
除菌が保険の適応となるのは、かつては胃潰瘍、十二指腸潰瘍の患者さんのみでしたが、現在では胃がんで内視鏡的治療後の患者さん、慢性胃炎の患者さんにも適応が拡大されております。潰瘍はないがいつまでも不定の症状が続いている方(機能性胃腸症)にも除菌のメリットは大きいといえます。
 
除菌して具合が悪いという方が30%もいたとしたら、そもそも除菌療法そのものが批判を浴びて承認されていないはずです。ひとつの治療法を保険適応にするためには慎重に治験が重ねられはっきりと有用性が確認され、副作用が容認される程度とわかってからなのです。
 
世間には人と違うことをいって注目を集めたがる方がいて、特にマスコミはそのような論調に飛びつきます。それはそれで、常に批判の目をもって判断、行動するという観点ではよいのですが、一般紙にこのような大きな誤解を招きかねない記事を載せてしまうことは大きな問題だと思います。 
 
これを読んだ患者さんが早速胃カメラのキャンセルを申し出てきましたが、胃カメラを行うのはあくまでも胃がんの検診、食道胃疾患の診断のためです。ピロリ菌については症状があって内視鏡的にも炎症がみられ除菌した方がよいだろうと思われる方にのみ検査を行います。そこでピロリ菌が陽性か陰性かわかるのですが、除菌のメリット、デメリットについては最終的によく話し合って決めることであり、胃カメラを行うことがピロリ菌除菌と直結するわけではありません。
 
実際の医療現場に即さない間違った記事が全国紙に大きくでてしまい、誤解が誤解を呼んで結局検査が遅れて手遅れになる方が出るのではないかと心配です。

がんはほっておいたほうが良い』、『血圧は治療しないほうが良い』、『コレステロールは高いほうが良い』、コレステロールの薬は副作用が強いので飲まないほうが良い』これらの情報はすべて間違いです。
 
さまざまな医療情報が飛び交っております。
いったい何が正しいのでしょうか?
どうしたらよいのでしょうか?

『そのようなときはかかりつけ医に相談を』などというのも正論ですが、そのかかりつけ医がきちんと勉強できていない例が非常に多いのと、思い込みの激しい医師もおりますし、柔軟な対応というものができない医師も多々おられます。

誤った情報に惑わされることのないように、気をつけましょう。

 

1,検査を受けるのは得か?損か? 2,看板に偽りあり!! 3,救急医療の実際 4,医療崩壊、タライ回しの現状

 1,検査を受けるのは得か?損か?
 
便潜血反応陽性の時に大腸検査のみを依頼されることがありますが、便に目に見えない血液が混じっている時は、大腸のみでなく、胃、十二指腸、食道の病気のこともあり、まれですが小腸の病気のこともあります。少なくとも胃カメラは必要であり、腹部エコーにて、小腸を含めて肝臓、胆嚢、膵臓、腎臓、膀胱、前立腺、婦人科臓器なども見ておいた方がよいと思います。腹部大動脈瘤や動脈硬化の診断も可能です。腹部エコーは非常に多くの情報が得られる有用性の高い検査であるにも関わらず、検診の項目に含まれておりません。検査技術を習得できていない医師が多いのも問題だと思います。
 
診察なしでいきなり電話予約ができる内視鏡検査など、言語道断です。また、検査による病状把握を行わないで、問診や診察だけで治療を行うというのは大変危険なことです。外から見たり、触ったりでわかるような異常は、すでに手遅れであることが多いからです。脳梗塞になってしまってから、予防薬を開始するよりは、そうなる危険が高いと判断された段階で、治療を始めた方がよいに決まっていますし、医療費についても、はるかに安くすみます。高血圧や高脂血症の治療を健康保険で補助してくれているのも、そのような理由からです。
 
検査を受けるべきか?受けざるべきか?どちらを選ぶかは皆さんの自由です。当院では積極的に検査を行い、早期発見、早期治療により、重大な結果に到らないようにと努めております。五体満足な状態で元気に長生きしてこそ意味があるのではないでしょうか?
 
異常があっても放っておいてほしい方、とにかく薬は飲みたくない方など、いろいろな方がおられるのは重々承知しております。費用についても考えなければならないと思います。
 
皆さんは医療機関を自由に選ぶことができ、希望をのべることもできるのですから、よくお考えのうえで受診していただきたいと考えています。
 
ものはいいようですが、『便潜血陽性ということで受診したが、大腸だけでなく胃カメラもしてもらって、エコーでは内臓をくまなくみてもらい、動脈硬化の診断までしてもらったので、とても安心できた。』と言っていただけたら、当方としても最高に幸せに感じる次第であります。
 
なお、検査を行うのは高い収益を得るためだというようにお考えの方がおられたとしたら、それも大きな誤解です。検査を何もせず、同じ処方を続けているだけ方が、時間もかからないし、設備投資や人件費も必要としないでのはるかに多くの収益が得られるのです。診察も検査もしないのに2週間ごとに通院する必要があるでしょうか?

当院では患者さんに最高の医療を提供するために、収益を度外視して、最高級の高価な設備と多めの職員を採用し、よりよいサービスを心がけています。検査器具は1例ごとに使い捨てのものを用いるか、厳重な消毒、滅菌処置を行っており、これにもかなりの費用を要しています。トイレットペーパーも一番高級なものを採用しています。気が付いておられる方も多いと思いますが、当院では最高の患者サービスをめざしております。これらの努力により得られた信用が、私の大きな財産であると考えています。
 
よい医療を展開するためには、職員が安心して働ける場でなければならず、それが患者さんへの良好なサービスへと展開されていくと考えています。収益を第一に考えているのであれば、職員を常勤採用にせず、パートをとっかえひっかえ入れかえて、給料を安く抑えて、年金や健康保険の面倒もみないということが行われるわけです。受付の職員がしょっちゅう入れ替わるような職場がそれです。職員にも生活があります。自分の立場があやうい状態で患者さんのことが思いやれるでしょうか?
 
当クリニックには関東学院長の言葉『人になれ、奉仕せよ』の書が掲示されております。その言葉の意味を是非お考えいただけたらと思います。

2,看板に偽りあり

以前にWPW症候群の患者さんを診察する機会を得ました。WPW症候群とは心臓内で本来の電気伝導路以外に側副伝導路とよばれる横道があるため、心電図波形がおかしくなり、時に致死的な頻拍性不整脈を生じます。この方の場合は、間歇的WPW症候群といわれる病態であり、時々、側副血行路を電気が通るというもので、危険な不整脈は生じにくいとされています。
 
ただし、自覚症状として動悸を伴っていたため心臓の電気生理検査が必要と考え、患者さんの実家近隣の循環器専門病院へと紹介しました。ところが、『これは危険な不整脈が出ている、すぐに入院して治療したほうがいい!』とただちの入院を指示されたとのこと、あわせて心臓弁膜症があるのに、『弁膜症はありません。』と、いずれも耳を疑う答えでした。
 
循環器の専門医といっても様々で、多くは心筋梗塞の急性期カテーテル治療を得意としているものが多く、不整脈や弁膜症は得意としていません。この担当医は心電図もきちんと読めないし、心エコーもわからないのかとがっかりしました。収縮期雑音がはっきり聞こえてるのに、ちゃんと聴診したのかよ?!聴診器をあてたふりをしていても、きちんと聞こえていないのでは意味がありません。
 
患者さんには病態について再度説明し、電気生理検査を日本一多く行っている超専門医を紹介しました。
 
病院を選ぶ場合、立地も大事ですが、やはり、その疾患に詳しい専門医に診ていただくほうが、正しい診断、治療への早道となります。
 
私はあらゆる疾患において、必要とあれば面倒でも超一流の専門医へと紹介しております。今回は安易に患者さんの実家の近隣の病院を紹介してしまったのが、いけなかったです。
 
それにしても専門バカと言いますか、循環器科を標榜していながら、弁膜症も分からない、こういうのを『看板に偽りあり』というのでしょうね。
 
皆さんの主治医の説明が明確でないとき、病態や治療方針がはっきりしないときは、是非、当院をご利用ください。適切に正しい診断・治療を行い、難しい疾患の場合には最前線の専門医へとご紹介いたします。


 3,救急医療の実際

当院のようなクリニックでもさまざまな救急の場面に遭遇いたします。ある日、糖尿病、高血圧で通院中の患者さんが腹痛、嘔吐のため受診しました。
 
顔面蒼白、発汗著明で、脈拍は140を超え、38.6℃の発熱をともなっていました。一見して重症で敗血症を疑わせる所見です。入院での治療が必要と判断しました。直ちに腹部エコーを行い、胆石と胆管の拡張、胆管内の結石を確認し、胆管結石の陥頓による急性化膿性胆管炎、敗血症と診断しました。診断や治療が遅れると死亡率の高い重篤な疾患です。引き続き血液検査と血液培養を行い、高容量の抗生物質の点滴を開始、同時に生理的食塩水による脱水の補正も開始しました。治療と平行して茅ヶ崎徳洲会総合病院の救急外来へ連絡をいれ、受け入れ準備を依頼し、救急隊へ搬送を要請しました。約1時間の経過で患者さんの状態は著明に改善し、救急隊からはどうして救急車なのかと文句を言われんばかりの状況でした。入院後の経過は順調で胆石、胆管結石に対し待機的な治療を行うこととなりました。
 
この患者さんの場合、きちんと診断されずに胃腸炎の診断でかえされていたら、命にかかわる重篤な事態をむかえていたと考えられます。エコーがすぐにできる環境が早期診断に結びつきました。
 
この患者さんが直接病院を受診していたらどうなっていたでしょうか?待ち合いで数時間待たされたあとに、これまでの病気の経過など、はじめから話をせねばならず、採血の結果を待ってからエコーの依頼となります。エコーは通常順番待ちで1時間は待たされます。検査結果がすべて出揃ってから、上級医師にコンサルトされ、ようやく胆管炎、敗血症の診断となり、入院決定。入院後の諸手続きが済んでようやく抗生剤治療が始まるという、実にもたもたとした展開となります。
 
以前に、私の知り合いがめまいにて某救急病院へ搬送された際には、MRIなどの諸検査は受けられたものの、在院時間は12時間におよび、この間、治療としてなされたのは、1本の点滴のみでした。本人も家族も疲れはてるという展開でした。
 
救急の現場で求められるのは、適確な判断力、決断力、実行力、スピード感覚であり、そのためには多くの場数をふんでいること、多くの経験と知識の裏づけが必要です。
 
昨今の萎縮医療の現場では、専門でないからとの理由で受け入れ拒否が横行しております。医療訴訟の問題が大きく影響しているのは確かなことですが、こんなことでは、思い切った医療は展開できず、助かるものも助けられなくなってしまいます。救急医療の教育体制の充実と医療環境の根本的な改善が望まれます。

4,医療崩壊、タライ回しの現状

茅ヶ崎在住の方にはピンと来ないかもしれませんが、救急現場での受診拒否は深刻な問題となっています。かつてタライまわしと問題にされた25年前に逆戻りしてしまいました。特に関西地方では救急受け入れの連絡を待っている間に患者さんがなくなってしまったという重大な事件が頻発しています。

どうしてこのような状況になってしまったのでしょうか?受診拒否については、責任は問われません。むしろ、受入れ体制が不備な状況で、救急患者さんを受け入れて治療経過が悪い場合など、医師は最善を尽くしたにも関わらず、医療裁判を仕掛けられたり、刑事告発される事態が生じているのです。

医師研修システムの自由化により、研修医の研修病院への集中と医療過疎化のアンバランスが進んでいます。また、医療費抑制政策、医師を悪者扱いしてきたマスコミ、それに迎合するように動いた警察、出産、手術、麻酔、薬害などで命を失うことがあるということを理解できない患者家族、そして救急車をタクシー代わりに利用する不届きもの、真夜中でも気楽に受診するコンビニ感覚など、いろいろな要因により、救急医療体制が全く崩れ去ったといってよいでしょう。

医師を高給取り、金もうけ主義などと思っている方がいることは大変残念なことですが、病院の勤務医の場合、ほとんどは年収1000万円以下で多くても1500万円程度です。深夜、休日も休みなく働き、重い責任があり、勉強も続けていかなければなりません。決して高給取りなどではありません。開業医はどうかといえば、朝から晩まで外来、検査、往診など忙しく過ごし、代わりがいないという大きなプレッシャーがあります。開業資金として1億円ほどが必要ですので、ほとんどが返済に回ってしまいます。開業医は経営にまつわる仕事も多く、診療が終わり、職員をかえしてから、さらに大仕事が待っているのです。

一部には医療ミスがあるのも事実ですし、いい加減な医師がいないとはいいません。しかし、ほとんどの医師は、自分の生活を犠牲にして、患者さんのために一生懸命に医療をおこなってきました。
 
しかし、医師を酷使し、悪者扱いするものだから、多くの医師がやる気を失い、リスクの高いことを避けるようになってしまいました。ミスを犯していなくても結果が悪いと訴えられる可能性が高いご時世では、だれもリスクをとろうとはしなくなります。思い切って手術すれば50%助かる見込みのある患者さんがいても、死亡してしまった場合には、医療裁判、刑事告発が待っているのですから、あえて手を出さないようになってしまいました。手を出さないで悪い結果も困りますので、最初から引き受けない方がよいということになるわけです。私が若手のころは一か八かの治療でも思い切って行い、ほとんどがうまくいきました。また、たとえ結果が悪くても患者家族から恨まれるというようなことはなく、『最善を尽くしていただいた。』と感謝されたものです。

萎縮しきってしまった医療!大変残念な状況です。

結局は十分なコミュニケーションがとれなくなってしまった医療者および患者サイドの未熟性が問題なのではないでしょうか?インフォームドコンセントの重要性が叫ばれて久しいですが、書面だけでなく、心に響かなければ意味がないということでしょう。また、医師の意欲の喪失も問題ですが、実際にマンパワーにかけており、リスクがとれない状況になっているのです。行政の関与も重要だと思います。

これ以上、医療崩壊を進めないためにも、医療体制の充実と医師と患者との強固な信頼関係を築いていく必要があると思います。たとえ悪い結果になってしまったとしても、『ありがとうございました。』といっていただけるような関係つくりが大切だと思います。
 

1,お薬がきらいな方へ  2,亜鉛で元気回復 3,はやらないお店は? 4,うつ病について 5,大腸がんはこわくない

1,お薬が嫌いな方へ 

 『○○さん、今日の血圧は165の95ですよ。いつ脳出血をおこしてもおかしくない状況ですよ。もう、2年間も血圧が高いままではないですか。そろそろ、薬を始めませんか?』という医師の勧めに対して『いやぁー、もう少し様子をみさせてください。最近、サプリメントを飲んでいるんですよ。血圧が下がるらしいんです。』『食事療法も運動も結局できなかったじゃないですか?たばこも20本も吸っているし、お酒を飲めば、つまみも食べるのでかなりの塩分が入ってしまうんですよ。今度はサプリですか?一か月にいくらぐらいかかります?』『6000円くらいですかね。とにかくもう少し様子を見させてください。』

こんな会話が毎日の診療の中で繰り返されています。確かに高血圧の治療の基本は生活習慣の改善にあります。まず、塩分を控えること、肥満の方はやせるように努力すること、適度の運動が必要で、ストレスや睡眠不足もいけません。タバコは動脈硬化が進みますので、やめましょう。お酒も過ぎれば相当のカロリーとなり、肥満の原因となります。また、塩分の取りすぎにもつながります。寝つきはよくなっても、夜間にのどが渇いたりトイレに行きたくなったりで、良好な睡眠は得られません。アルコールは1合程度に抑えましょう。
 
このような努力が続けられれば、体重が下がり、血圧も安定化し、動脈硬化の予防につながります。しかしながら、結局のところ長続きしない方の方が多いのが現状です。
 
血圧をきちんとコントロールした人たちと、放置した人たちを比較した研究は多数あり、高血圧の方たちは動脈硬化が進行し、脳梗塞、脳出血、狭心症、心筋梗塞、腎不全、閉塞性動脈硬化症(下肢の血管がつまってしまう病気)にかかる確率がとても高くなり、死亡率も大きく差がでているのです。
 
高血圧の薬を処方され、9000円かかったとしても、自己負担金はその3割以下、3000円以下しかかからないのです。どうして、健康保険が血圧の薬に補助をだしているかといえば、血圧を放置して脳血管障害で寝たきりになられた方が、はるかにおきな医療費が生じてしまうからなのです。

薬を頑として飲んでくれない方たちは、おそらくお金の問題ではなく、薬自体がよくないものだと信じているのだと思います。『そんなに長く薬なんか飲むもんじゃないよ!』と誰かにいわれたため、勝手に薬をやめてしまい、病院にもきにくくなり、高血圧を放置してしまう方が、たくさんおられます。そして、その中には脳梗塞になつたり、腎不全になってしまった方もおられます。
 
確かに一部に薬が体にあわない方がおられることは事実なのですが、薬との相性と副作用をきちんとチェックしながら服用を続ければ、長く飲んではいけないなどということはありません。むしろ、長く飲んでいただいた方の方が、元気で長生きできるのです。
 
高血圧治療のガイドラインでは、血圧のコントロールが不十分な場合には1剤の量を増やすのではなく、複数の薬の併用を勧めています。高血圧の原因はいろいろな要素からなるため、1か所よりも複数の個所で食い止めようという考え方です。その方が、効果が上がり、副作用も少ないのです。

薬に対する誤解を解くことも我々医師の大きな役割ですが、短い診療時間の中ではなかなか難しいです。患者さんのすきなようにさせて、いいなりになっている方がどんなに楽かしれません。
 
『あの医者はすぐに薬を飲ませたがる。』などといいふらされるのは困ります。一方で『あの先生は薬は出さないし、いい先生だよ。』などという会話が、皆さんのまわりでもよく聞かれるのではないでしょうか?しかし、最も許しがたいのは不勉強、思い込みの激しい医者です。医者のなかでも薬はよくないと思っているものが結構いるのです。たまたま内視鏡検査などで私が診察した際に『こんなに血圧高いのに、薬を飲んでいないのですか?』とお聞きすると『先生が様子をみようというんですよ。』などという返事が返ってくるのです。
 
自分の体を守るには自分自身がよく勉強することです。新聞の特集でも、一般向けの医学雑誌でも高血圧の適正な治療法について、同じようにかかれておりますので、ご自分でよく確認して、納得の上できちんとした治療を受けていただきたいと思います。


2,亜鉛で元気回復!!、栄養療法の見直しを!!

長野県東御市みまき温泉診療所の倉澤隆平先生の講演を聴く機会を得ました。その内容は驚愕すべきものでした。倉澤先生は2002年に『多くの医師が考えているよりも、遙かに多くの亜鉛欠乏患者さんがいる』ことに気付かれ、非常に多くの患者さんの治療にあたりながら、臨床研究を重ねてこられました。
 
亜鉛欠乏による味覚異常や皮膚炎は有名ですが、食欲不振、拒食、精力減退、褥瘡の発症、治癒遅延、舌痛、貧血、下痢、掌蹠膿胞症、膿胞性乾癬、尋常性乾癬などの原因としても考えられるとのことです。  実際の例として『意識のある植物人間』ともいえる状況の寝たきりの患者さんが亜鉛の補充により、元気になり、笑顔でしゃべり、食事もとれるようになったという例、難治性の重症褥瘡がみるみるよくなる例、あらゆる治療に抵抗した難治性の皮膚病が改善した例など、多くの症例を提示されました。
 
先生によれば食欲不振で寝たきりになってしまっている患者さんのほとんどは亜鉛欠乏症に陥っているとのことです。
 
亜鉛欠乏の診断は血液検査にて容易ですが、いわゆる正常値が基準とはならず、亜鉛の血清値は個人差があるとのことでした。したがって、症状の経過をみていくことと亜鉛の値を経時的にみていくことが重要とのことです。安易に胃瘻造設術をおこなって、意識ある植物人間を作り出していないかと、強く警鐘を鳴らされておりました。
 
老人医療、在宅医療、老健施設などで仕事をされている方、あるいはそのような患者さんのご家族は是非亜鉛に関心を持って、治療を試みられることをお勧めいたします。
 
亜鉛補充療法は当院でも多数の経験がありますので、心当たりの方は是非ご相談ください。また、詳細については『亜鉛欠乏症のホームページ』をご参照ください。多数の写真による説明があり、大変説得力があります。
 
入院患者さんの治療経過を大きく左右するものに適正な栄養管理が挙げられます。残念なことに多くの医師は栄養療法に興味を持っていないか、無知であり、適正な栄養管理がなされておりません。私が勤務医時代に他科に入院中の患者さんの消化管出血の内視鏡止血術を依頼されることが多くありましたが、そのような患者さんは、塩水に砂糖を混ぜたような点滴が入っているだけでした。これでは治るものも治りません。
 
肉体を維持し、病に打ち勝つためには、適正なカロリー、アミノ酸、脂質、ビタミン、微量元素が必要です。ダメ医者ばかりの病院では栄養管理を指導するチームが病院を巡回するシステムをとっています。これをNST(nutrition support team)といいます。各主治医がきちんと勉強していれば必要のないシステムです。
 
あなたの大切なご家族のために是非、主治医に問いかけてください。『カロリーはいくら入っていますか?アミノ酸は何グラム?、脂肪は?ビタミンは?亜鉛は?』と・・・ 

3,はやらない店は

飲み屋さんでもレストランでもあるいは美容院などでもお客さんがそこそこに入っているお店のほうが入りやすいのではないでしょうか?また、店構えはそこそこに立派なほうがよいでしょう。店の顔には店主の思い入れがあります。店構えのいい加減な店は内容もいい加減と考えたほうがいいでしょう。(ただし、一部には体裁はこだわらないが、いいものを出してくれるお店もあることはあります。)
 
夕食にぶらりとはいってみたら、客はおらず、おかみさんらしき人が客席で休んでいました。なんか、いやな雰囲気です。
 
出てきた料理はお世辞にもうまいとは言えません。食材もレベルが低く、味も盛り付けもいけません。料金はやや高めか?内容を考えるとひどく割高に感じます。二度とこの店には入らないと決意して店を出るのではないでしょうか?
 
『あの店は・・・・だったよ。』何かの話題のおりに話が出るでしょう。その時に『私もひどいと思った。絶対行かない!』なんて盛り上がってしまったら、もう大変です。
 
お客さんは全く来なくなり、食材はあまり、古いものから使用せざるをえなくなります。費用が足りなくなり、良い食材は得られなくなります。職員の士気も落ちます。店構えにもお金がかけられなくなります。
 
こうなってしまうと完全な悪循環で、いづれ崩壊の場面を迎えることとなります。

幸いにも当院は多くの方々にご利用いただき、予約制にも関わらず、待ち時間が生じてしまっていることが、気がかりとなっております。当院では一人当たり10分間の予約時間を割りあてており、これは、一般病院の2倍の時間に当たります。それでも診療が長引いてしまうこともあるのです。
 
しかしながら、以上のようなことから、若干、お待ちいただくのもいいのではないかと思うようになりました。患者さんの待ち時間を気にして話を途中で切ってしまったり、必要な検査を先延ばしにしたりということは、あってはならないと考えています。
 
当院には100種類以上のパンフレットが用意されており、有用な医療情報を得ることができます。待ち時間には是非パンフレットを物色し、疾患に対しての理解を深めていただきたいと思います。
 
また、音楽、絵画、季節の花々、観葉植物が待合室を飾っておりますので、どうか心静かに診察をお待ちいただきたいと思います。

4,うつ病について

近年、心の病に苦しんでおられる方が、増えています。中年男性の死因の第1位は自殺です。皆さんご存じだったでしょうか?

高血圧で通院中のAさんは、いつも元気で笑顔です。しかし、ある日の診察時、浮かない顔押して『先生、精神科ってどうやって、受診するんですか?』との質問がありました。『精神科って?どうかしたんですか?何か悩み事でも・・・』
 
Aさんはいろいろ事情を話してくれましたが、結局のところ、悩みのため眠れない、ようやく寝付いてもすぐに目が覚めてしまう、眠りが浅い、いつもだるい、食欲がない、やる気がでない、うだうだしている、何から手をつけてよいかわからない、以前好きだったことに興味がなくなった、判断力が鈍ってきた、ミスが多くなってきた、などの症状が連鎖的に出てきていています。
 
最悪の状況になると、自責感が強くなり、自分など生きている価値がない、この世からいなくなってしまいたいなど、自殺願望が生じてきます。
 
うつ病にもいろいろありますが、原因がはっきりとしている場合には、その原因を除去することが一番大切です。しかしながら、それが簡単にはできないからどんどん深みにはまってしまうのです。
 
一番有効とされる治療法はまず十分な休養をとることです。決して、『みなも頑張っているのだから、もっと頑張りなさい。』などといってはいけません。患者さんは、精一杯頑張って、もがき続けて、すでにエネルギー切れの状態なのです。
 
会社を辞めたいのなら、辞める前にまず、休みなさい。死んでしまいたいと思うなら、死ぬまえにまず会社を辞めてみましょう。何もかもなしにして、じっくり休むと、ふたたび力が湧いてくるものなのです。
 
自殺願望が出てきてしまっている方には、決して自殺をしないと約束させることが大切です。『あなたの親や子が自殺したら、あなたはどう思いますか?』と問いかけると、『そんなのは絶対に嫌です。つらいです。なんとかしてあげたかったと、悔やむと思います。』と答えます。『あなたが自殺したらあなたの家族が、どんなにつらい思いをするか、よくわかりますね。ですから、決して、死なないと約束してください。』
 
うつになる方は、基本的にまじめで他人を思いやる方が多いのです。ですから、自殺して家族を苦しめてはならないと説得すると聞き入れてくれることが多いのです。

うつの治療薬としては脳内物質のセロトニンの作用を高める薬が有効です。ただし、内服してすぐに効くわけではありません。徐々に増量していくうちに効いてきて、日常生活に戻ることができるようになります。その後も、薬は比較的長期間服用していただきます。よくなってきたからといってやめてしまうと、せっかく改善に向かっていた症状が悪化してしまうからです。
 
自殺企図のあるような重症のうつ病あるいは双極性障害(躁うつ病)の治療は、精神科の専門医にお願いした方がよいと考えております。しかしながら、精神科を受診するまでもない軽症うつの方が非常に多くおり、なかにはうつ症状というよりも、胃腸症状、倦怠感など身体の不調としか訴えない方もおられ、このような方にも、抗うつ剤が有効です。軽症うつの治療は一般内科医ないし家庭医の役割と考えられ、症状が悪化しないうちに相談していただければと思います。

なお、うつ病についての専門治療を希望するが、精神科はチョッと・・といわれる方には、大船にある『信愛クリニック』井出広幸先生をお勧めいたします。じっくりとお話を聞いてくれて、最善の治療を提供してくれます。井出先生はかかりつけ医としてうつ診療を行っている私の指南役であります。私はかつて井出院長の指導のもと信愛クリニックにて心療内科の外来診療を行っておりました。現在は本業の内科が忙しく心療内科は長期通院中の方のみに継続させていただいておりますが、心療内科についての勉強は現在も継続しておこなってます。


5,大腸がんはこわくない

現代人の食生活は大きく変化しており、そのためか日本人に大腸がんがとても増えています。その一方で早期発見により助かっている方もたくさんおられます。大腸がんで苦しむことのないように、その対策についてお話ししましょう。

皆さんは大腸がんという病気をどのように認識されていますか?
がん、こわい、不治の病…、検査がとてもつらそう、自分は何の症状もないし関係ない、、、などなど。

日本の誇る世界の大巨人ジャイアント馬場さんが大腸がんに倒れ、手術後間もないうちになくなられたのはプロレスファンの私には大変ショックでした。ほんの1ヶ月前まで元気にリングに上がっていたのですから、信じられなかった方も多かったと思われます。

病気というのはとことん進まないと症状が出ないものなのです。何十年も何ともなかった橋げたがある日突然に崩れ落ちてしまうのと同じで、内部がガタガタでも一見何ともないのが人体なのです。

☆「例をあげてみます」
高血圧で長年近くの医院に通院していた方が、下血したために受診されました。大腸内視鏡検査(大腸カメラ)をしてみると相当に進行した大腸がんで、すでに肝臓に転移しています。残念ながら手の施しようがありません。

なんで長年通院してきたのにわからなかったのかと言われても、こればかりは検査してみないことには診断できないのです。よくよく聞いてみると1年前より排便時に血液が混じるのに気がついていたが、自分では痔のせいだと思い言わなかったとのことです。もし、1年前に検査を行っていればと悔やまれてなりません。

もう一例あげてみましょう。患者さんは私の知り合いの看護婦さんです。ご自身が人間ドックを受けたところ便潜血反応が陽性でした。しかし、『内視鏡検査は恥ずかしい、いやだ。』という思いが先に立ち、再度、便潜血反応を調べたところ陰性と出てしまったため、結局、内視鏡検査を受けませんでした。

しかし、1年後の検診でやはり便潜血反応が陽性となったためいよいよ意を決して大腸内視鏡検査を受けました。結果は直腸の進行癌でしたが幸いにも転移していなかったため手術にて完治しました。

この患者さんの場合、手術にて治せたのは不幸中の幸いでしたが、1年前であれば内視鏡でがんの部分だけを切除できたかもしれないのです。その場合にはお腹に傷は残りませんし、手術したことにより生じうる癒着、通過障害、便秘、下痢などの合併症に悩まされることもありません。また、転移するかもしれないという不安もいだかなくてすんだのです。

☆「症状」
ここで大腸がんの症状についてお話ししましょう。大腸の長さは120cm程であり、お腹の右側を上行した後に左に横行し、その後、下行して下腹部でS状に屈曲した後に直腸に達します。大腸がんは初期のうちはどこにできても症状はありません。

がんが進行して内腔に突出してきて内腔を狭めるようになってはじめて症状が出てきます。病変が直腸ないしは直腸に近い場所に生じた場合には、硬い便が狭いところを通過するために出血します。また、便が出にくくなりウサギの糞のように小さくコロコロとした便が出るようになります。あるいは便秘が悪化する、便秘と下痢を繰り返すようになるということもあります。排便習慣に異常が生じた場合には要注意なのです。

一方、がんが上行結腸などお腹の右側の肛門より遠い部分の大腸に生じた場合には、たとえ狭窄していても便が軟らかいため症状が出ません。また出血していたとしても目に見えないのです。そのため、相当に進行してお腹に腫瘤が触れる、あるいは、目に見えて貧血がひどくなるなどの症状ではじめて診断されることとなります。

いずれにせよ症状が出てから診断されたものはほとんどが進行がんですので、手術が必要となり、手術がうまくいったとしても転移の心配が一生つきまといます。そして、転移が発見された場合にはほとんどが治癒不可能と考えた方がよく非常に厳しいと言えます。

しかし、運よく早期がんの状態で発見されれば多くが内視鏡を用いて切除することができます。あるいはがんになる前のポリープの段階で切除できれば、なおいいといえるでしょう。

☆検査法
大腸がんの検査法として検診などで最も多く用いられている方法は、便の中に目に見えない血液が混じっていないかを検査するもので、便潜血反応という方法です。

この方法ですべてのがんが診断できるわけではありませんが、逆にもし陽性と出た場合には最も確実な検査法である大腸内視鏡検査を必ず受けていただきたいと思います。もう一度便の検査をやりなおすというのは大変危険な選択であるのは、先ほどの例でお示ししたとおりです。

大腸内視鏡検査はどのように行うかというと、検査当日の朝より洗腸液という大腸の中を洗浄する液体を飲んでいただき、大腸がきれいになったところで内視鏡を肛門より挿入していき大腸全体を観察するのです。

この方法の利点は、直接に大腸粘膜の観察ができるため数mm大の病変であっても診断でき、しかも、組織の一部を採取し病理診断に回すことができることです。また、ポリープや早期がんは発見したその場で切除してしまうことができます。

しかし、大腸内視鏡検査にも多少の問題点はあります。それは、長くまがりくねった大腸の一番奥までスコープを進めて行くには相当の熟練を要し、検査医の技量により検査時間や、患者さんの苦痛が大きく変わることです。また、手術後の患者さんなどは癒着などにより腹満や疼痛を伴うことがあります。

もう一つの検査法に注腸X線検査という方法があり、バリウムを肛門から流し込んでレントゲンを撮ることにより診断します。この方法は技術的には内視鏡よりも簡単ですが、影絵のようなものですから微細な病変の診断は困難ですし、便とポリープとの区別が付かず結局内視鏡検査を要したという例も多くあります。

手遅れにならないための対策としては検診で便潜血反応は毎年受けること、潜血反応陽性の場合には躊躇することなく内視鏡検査を受けることです。内視鏡検査にてポリープや早期がんが発見された場合にはその場で治療できますが、念のため1年後にも内視鏡検査を受けていただきたいと思います。ポリープやがんが見つかった場合には、その他にもポリープが存在することが多いのですが、腸の襞に隠れて発見できないことがあるからなのです。

また、何も異常がない場合にも35歳になったら1度は内視鏡検査を受けていただきたいと思います。特に、大腸がんの家族歴のある方は要注意ですので必ず3年に1度は内視鏡検査を受けていただきたいと思います。

☆「予防」
また、予防策としてはバランスのよい食事、特に野菜を中心とした繊維質を多くとることをお勧めします。規則正しい生活、適度の運動と十分な休息、排便習慣のコントロールが重要で、何よりもストレスのない健康的な生活が第一だと考えています。

私自身については、不幸にして手遅れとなった患者さんをみるたびに心配になり、これまで6回も大腸内視鏡検査を受けてしまいました。特に苦痛なく検査は終了し異常も発見されず、とりあえず安心して過ごすことができています。ちなみに胃内視鏡検査(胃カメラ)については毎年検査を受けており、患者としてもベテランとなっています。

なお、まれながら癒着により非常に強い痛みを訴える方もおられます。その場合は、鎮痛剤も使用できますし、注腸X線検査に切り替えることも可能です。

『あんな検査は受けるものではないよ。具合が悪くなってしまうよ!』などといって、検査予定の患者さんを脅かしたり、検査を受けることをやめさせることだけはしないようにお願いいたします。

万が一、その方ががんであった場合には、無責任なひとことにより、その方の命を奪うことにもなりかねないのです。

きちんと予防対策と検査を行っていれば大腸がんは決してこわいものではありません。
検査は極力苦痛なく、短時間で行いますので、こわがらずに検査を受けていただきたいと思います。

なお、当院では最新型のNBI搭載の拡大内視鏡による詳細な検査が可能です。
大腸検査は最高の機種、内視鏡専門医による検査を受けたほうがよいでしょう。