潰瘍性大腸炎と妊娠について
 


潰瘍性大腸炎は10代後半から20台によく発症する疾患です。
診察でよく聞かれるこの「潰瘍性大腸炎と妊娠」に関する質問については、医学的な結論が既に出ておりますが、実際に患者さんを目の前にしたとき、自信が揺らぐ現実もあるのではないでしょうか?患者さんが自分の判断で薬を中止してしまうケースもあり、問題視されています。患者さんの不安・心配の多くは、薬の妊娠に対する影響です。特に奇形について大きな心配があります。

医師の立場からすると潰瘍性大腸炎の患者さんの妊娠にあたっては、病気あるいは薬剤による赤ちゃんへの影響と妊娠による病気への影響を考える必要があります。

活動期(腸に炎症が続いている状態)の妊娠では、不妊、流産や早産の危険性がやや高くなるとの報告があります。

寛解期(腸の炎症が治まっている状態)の妊娠では、潰瘍性大腸炎の病状に影響を及ぼすことはないといわれています。一方、活動期での妊娠は、約3分の2で病状が活動期のまま治癒せず、または悪化するとの報告があります。

これらの理由から、寛解期に妊娠するのが望ましく、特に6ヶ月以上十分に寛解を維持した状態での妊娠が安全で勧められます。

潰瘍性大腸炎は遺伝しません。
潰瘍性大腸炎とクローン病を含む「炎症性腸疾患」というくくりでみると、炎症性腸疾患患者さんの身内に同病の人がいる各率は1~数%と報告されています。これは、そうでない人と比べれば数倍高いことになりますが、それが遺伝の影響なのか、生活環境による影響なのかは、はっきりしていません。
いずれにしても、潰瘍性大腸炎の患者さんのお子さんが同じ病気になる確率は、糖尿病や高血圧など他の疾患に比べると、低い確率といえます。

妊娠に際しては産婦人科と消化器科の診療科にかかることになります。
消化器科では、妊娠を希望していることを伝え、なるべく寛解期に妊娠できるよう、病気をコントロールしていくことが大切です。さらに、病状が悪化する場合もあるので、妊娠中も潰瘍性大腸炎の診察は定期的に受ける必要があります。産婦人科では、自分が潰瘍性大腸炎であることをきちんと説明し、母体と胎児の健康状態を 注意深く観察してもらいましょう。
また、どちらの診察科にもどこの病院にかかっているかを伝えておきましょう。消化器科と産婦人科の両方の主治医が連絡を取り合える状態にしておくと、何かあったとき、速やかに対応できます。

妊娠中も 薬は継続してください。
潰瘍性大腸炎に用いられる薬の多くは胎児に影響が少ないことが知られています。したがって、基本的には妊娠前と同様に服用することが勧められます。母体の健康状態を保つことが、胎児の発育、安全にもつながります。メサラジン、サラゾスルファピリジン、プレドニゾロンは、妊娠中に継続して服用しても影響が少ないことが知られています。サラゾスルファピリジンについては、一緒に1日2mgほどの葉酸を摂取することが望ましいとされています。
アザチオプリンなどの免疫調節薬は、胎児に影響を及ぼす可能性が指摘されていましたが、実際に影響があったとする報告は少なく、医師の間でも見解がわかれています。
ただしアザチオプリンは妊娠中は禁忌と明記されてしまっているため、大変面倒です。
専門医は寛解維持のためアザチオプリンを継続投与する傾向にあります。
基礎疾患がなく何も薬をのんでいなくても、流産、早産、異常妊娠、奇形の問題は存在します。
寛解維持療法を優先するのが良いと思われます。
治療薬については、安心して服用が継続できるよう、医師の指示を仰いで定期的なチェックを受けてください。

妊娠中に再燃したら 一般的な活動期の治療に準じて行います。
再然は妊娠に悪影響が及ぶ可能性があることから、胎児への影響が少ない薬、治療法を選びながら、一般的な活動期の治療に準じて治療法を選択します。軽症にはメサラジン、中等症から重症にはプレドニゾロンを用いるほか、潰瘍などの炎症が肛門に近い場合はメサラジンの坐剤や注腸を使うこともあります。また、血球成分除去療法や生物学的製剤なども、安全に治療が行えたと報告されています。

レミケードなどの生物学的製剤を用いた場合には、新生児への免疫に影響することがあり、生ワクチンが感染を生じる可能があります。レミケードが胎児に影響するのは妊娠30週以降とされております。妊娠30週から出産までレミケードを中止することも多いです。レミケードは母乳へは移行しませんので、出産後の再開は可能です。

レミケードを継続したまま出産した場合には、赤ちゃんへの生ワクチン(ポリオ、風疹、麻疹)の接種は半年ほど待ったほうが良いとされています。インフルエンザワクチンなどの不活化ワクチンの投与は可能です。

出産前後は、再燃・悪化することがあります。そのためにも消化器医と産科医が連携できるように準備しておく必要があります。出産後は、睡眠不足や育児ストレ スがきっかけとなり再燃してしまうことがあります。できるだけ疲れをためないように睡眠時間を確保し、子育て以外の家事などは周囲の人に協力をお願いしましょう。いずれにしても、出産後、赤ちゃんを育てるのはお母さん自身ですから、まずは自身の体調管理に気を配り、再燃予防に努めましょう。

授乳中も薬は服用する必要があります。
母乳は、赤ちゃんに必要な栄養が含まれており、母乳で育てることは感染予防や発育面にもよい影響を与えます。お母さんがのんだ薬は、体内に吸収され、ごくわずかに母乳に移行しますが、その薬が赤ちゃんに影響を及ぼすものかどうか種類によって異なります。メサラジンやサラゾスルファピリジンは母乳への移行が少なく、安全な薬と考えられています。
一部、母乳にはふさわしくない薬も有りますが、薬をのまないことで再燃をしてしまうと育児もできなくなってしまいますので、薬は継続して服用し、授乳してもよいかどうかは、医師に相談しましょう。

潰瘍性大腸炎の男性は、潰瘍性大腸炎それ自体が原因で不妊になることはありません。
ところが、サラゾスルファピリジンでは、精子の数や運動能を低下させるという報告があり、男性不妊の原因となりえます。しかし、この影響は一時的で、薬の内服を中止すれば、2ヶ月程度で元に戻ります。
赤ちゃんを希望している男性患者さんは、医師に相談し、他剤への変更を検討してもらいましょう。

潰瘍性大腸炎の女性はきちんと疾患をコントロールすることにより、多くは妊娠、出産が可能です。不安な気持ちは大きいと思いますが、薬剤も安心して継続してください。

なお、炎症性腸疾患で潰瘍性大腸炎の類似疾患であるクローン病についても、
妊娠時の対応はほぼ同様です。

実際に多くの方が正常に出産しております。
妊娠を計画している方、妊娠とわかったかたは、主治医とよく相談して勝手に治療を中断することがないように、お願い致します。
正しい知識をえたうえで、いたずらな不安にさいなまれることなく、妊娠に挑戦しましょう。

2016/10/27