循環器コーナー
 

■心房細動にであったら???

◆心房細動について
心房細動は中-高齢者にしばしばみられる不整脈で、医療者側から見るとよくみるありふれた不整脈です。日本での罹患率は1~1.5%でおおよそ150万人の患者さんがいると推定されています。80歳以上の高齢者になると女性の4%、男性の8%もの患者さんがおられます。
 
心房細動とは心房内に大小不同の細動波が生じ(f波といいます)、それが不規則に心室に伝わるため、心拍が不規則になるものです。
 
心拍数が速くなるとドキドキする、脈が乱れているということで自覚されることもありますが、心拍数が100以下では無自覚のこともしばしばあります。
 
心房細動の一番の問題点は、心房がきちんと収縮しないことにより心房内の血流が極端に遅くなりうっ滞するため、左心房というところに血栓を生じてしまうことです。その血栓が心臓から剥離され脳の血管に詰まると脳塞栓症という重症の脳梗塞を発症します。その予防として、あとで述べる抗凝固療法が必要となることがあります。
 
もう一つの問題点は徐々に心機能が落ちてきて、心不全の状態になることです。労作により息切れがして、日常生活もままならぬことになります。
 
心房細動になる原因はさまざまで、心臓に負担となる要因が長年にわたり重なると発症してきます。高齢、高血圧、心臓弁膜症、心筋梗塞、心筋症、バセドウ病などが主なものです。
一過性の原因としては脱水、過度の運動、過労、アルコールの多飲などもあげられます。
 
◆心房細動の治療
治療法として心拍の乱れはそのままに心拍数を頻脈にならないように適正にコントロールすることをレートコントロールといます。一方、抗不整脈薬を用いてリズムそのものを正常に維持することをリズムコントロールといいます。普通に考えれば、リズムコントロールを行った方が予後が良いように思われますが、抗不整脈薬の副作用の問題や確実に効いているか、服薬が守られているかどうかなどの問題があり、いずれの治療でも予後に差がなかったとのことで、結論付けられています。
 
最近はアブレーションといって不整脈の起源となる部位をカテーテル焼灼により隔離してしまう方法が進歩しており、根本治療として広まっております。ただし、アブレーションは超専門医の行う治療であり、上手にできる施設はかぎられています。近隣では横須賀共済病院が最も症例が多く、当院からも多くの患者さんがお世話になっています。湘南鎌倉総合病院、平塚共済病院でも技術的にはひけはとりません。
 
また、アップストリーム療法といって、基礎疾患の治療をきちんと行うことにより、心房細動になりにくくする療法もあります。具体的には高血圧に対し心筋にもよい働きがあるとされるARB/ACE阻害薬という部類に属する降圧剤を用いたり、高コレステロール血症に対し動脈硬化抑制作用のあるスタチンを用いたりすることです。
 
◆抗凝固療法について
心房細動で脳塞栓症を生じると広範囲の梗塞となり、出血性梗塞を合併するなど重症化しやすいことが知られています。1年後の生存率は50%程度と推察されています。
 
心房内血栓が脳塞栓症を生じる可能性については、そのリスクを予測する指標があります。
1.心不全の既往(1点)、2.高血圧(1点)、3.高齢(75歳以上)(1点)、4.糖尿病(1点)、5.脳梗塞の既往(2点)などがあるとリスクが高まり、以上が2個以上重複してある場合(計2点以上)、あるいは脳梗塞の既往がある場合(2点)はそれだけでも抗凝固療法の適応となります。ややこしいようですが計2点以上で抗凝固療法が必要ということです。
このスコア(CHADS2 スコア)で2点以上だと年間の脳塞栓症発症リスクが4%と高くなるため、治療の対象とされているのですが、1点でも2.8%の脳塞栓症が発症しています。また、脳塞栓症発症者の内訳では1点以下が33%で実数では無視できない数でした。そのため、2点未満でもなんらかのリスク要因がある場合には、抗凝固療法の適応となります。
 
これまでは、抗凝固薬にはワルファリンという薬剤しかなく、ビタミンKにより効果が中和されてしまうため、納豆が食べられない、野菜の量を一定にしなくてはならない、投与量が適正かどうかを血液検査でモニターしなければならないなど大変面倒でした。
近年開発された直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)はこのような面倒くささがなく、投与量は患者さんの年齢、体重、腎機能などで決められるため、非常に使いやすくなりました。
効果においてはワルファリンに劣ることはなく、安全性においては優れているというデータが出ています。このため上記のような脳塞栓症の発症リスクが少ない場合でも、DOACが処方されるようになりました。
 
実際にワルファリン服用中の患者さんが脳出血を合併した場合では、当初の出血が小さくても出血が持続して重症化することがしばしばですが、DOACの場合は、発症時の出血が小さければおおごとにならずにすみます。
 
薬剤としてはリクシアナ、エリキュース、イグザレルト、プラザキサなどがあり、それぞれ少しずつ特徴があり、何を選択するかは患者さんの状況、理解度、ライフスタイルなどを主治医が把握したうえでよく相談して決めていくことになります。簡単に述べますと、リクシアナとイグザレルトは1日1回ですむので簡便、エリキュースは出血などの合併症が少なく安全性において優位にある、プラザキサは中和剤があり出血や緊急手術に際してのコントロールがしやすいなどの特徴があげられます。
 
抗凝固療法は諸刃の剣といえます。脳塞栓症の予防効果がある一方で頭蓋内出血、消化管出血、外傷などで出血が始まってしまうと止まらなくなります。主治医が上手に処方していくことも大切ですが、患者さんも病気や薬剤のことを理解してなるべく合併症が生じないように注意していく必要があります。
 
◆発作性心房細動と持続性心房細動
心房細動がときどきみられるものを発作性心房細動といいます。自覚症状がなくても知らないうちに心房細動を繰り返していることもあります。一方、常に心房細動のものを持続性心房細動といいます。発作性と持続性とで脳塞栓症のリスクに差はありません。
発作性心房細動は時々心房細動になったり、洞調律に戻ったりを繰り返すものですが、心房細動から洞調律に戻り心房筋の収縮力が回復してくると、血栓が剥がれやすくなるのです。ですから、発作性心房細動でも脳塞栓症の予防のため抗凝固療法を継続していく必要があります。
 
◆抗凝固療法の副作用対策
血圧管理が不十分ですと脳出血のリスクがあります。血圧は家庭での測定が重要であり、血圧手帳をつける習慣を持ちましょう。主治医の指示をよく守り、減塩、適度の運動、降圧剤の服用をきちんと行っていきましょう。
胃がんや大腸がんにおいては出血の原因となります。また、バイアスピリンなどの抗血小板薬を併用すると消化性潰瘍や出血性胃炎の合併も生じやすくなります。
できれば消化管の検査は受けておいたほうが良いでしょう。
胃にピロリ菌がいた場合には除菌しておいたほうが良いと思われます。
転倒による外傷出血、頭蓋内出血も大変危険です。その原因となるフレイルについては次項で述べたいと思います。
 
◆高齢者の心房細動 (フレイル、骨粗鬆症、認知症との関連)
ENGAGE AF-TIME 48という研究において、ワルファリン群、リクシアナ群(1日1回のDOAC)ともに、高齢になるほど脳卒中および全身性塞栓症、および大出血の発現率が上昇していました。
そして両者を比較するとリクシアナはワルファリンに比し安全性において劣ることはなく、75歳以上の患者において年間に1万人当たり144件のイベントを減らす結果が出ています。高齢者の抗凝固療法においてDOACのワルファリンに対する優位性が示されたものと思います。この研究ではリクシアナの1日1回という簡便性とリスク回避のための明確な減量基準がメリットを発揮したものと思われます。
 
高齢者の心房細動がどうして危険かというとフレイルの問題と認知症があげられます。
高齢者が足腰が弱り、筋肉量が減り、活動量が減少してしまうことをフレイルといいます。日本は超高齢者社会ですが、介護を必要とする方も多く単純に喜べない状況です。転倒などで頭を打つと頭蓋内出血が生じ、重症化することがあります。フレイルな心房患者さんの死亡率が2.3倍になるというデータがあります。
 
寝たきりになるのを予防するにはフレイルとともに骨粗鬆症の予防と治療も重要です。デイサービスや家庭でのリハビリ、規則的に散歩をするなど、運動療法が大切で有酸素運動のみでなく適度のレジスタンス運動も組み入れていく必要があります。また、高齢者は蛋白質を敬遠する傾向がみられますが、蛋白質をとらないと筋肉量が減ってしまいます。肉を好んで食べる老人は元気ですよ。これらはむしろ、さらに若いうちからの取り組みが大切ですね。骨粗鬆症の治療薬は有効なものがいろいろとラインナップされております。治療は早期から始めた方が効果的です。腰が曲がってしまってからでは遅いですね。
 
また、認知症も大きな問題です。薬を飲んだかどうかわからない?薬の飲み忘れもいけませんが、薬を2回分飲んでしまったらどうでしょうか?認知症を合併した心房細動の患者さんの死亡率は一般住民の3倍高いといわれています。認知症の患者さんについては家族による薬の管理がきちんとできない場合、抗凝固療法は行うべきではないでしょう。
 
80-84歳での心房細動の患者さんは認知症罹患率が一般住民の2倍高いといわれており、その理由の一つに心房細動のもたらす無症候性脳梗塞が脳血管性認知症を引き起こしている可能性が考えられています。心房細動で認知症になりやすい、認知症合併の心房細動は死亡率が高いという、魔のシナリオができてしまいます。
 
骨粗鬆症や認知症の進行は女性ホルモンの減少とも大きく関与しています。女性の場合はいかに更年期をうまく乗り切るかが大切で、場合によっては低用量ピルなどでのホルモン補充療法をうまく行っていくことで更年期以降の生活が大きく変化するといえるでしょう。
 
日頃から規則的に運動して水分を適度にとり、血栓ができにくくしておくことも大変重要です。EPAを多く含む青魚もつとめて食べるように心がけましょう。
 
2016/11/6