循環器コーナー


期外収縮について

心臓が一瞬ドキドキしたり、脈が飛んだように感じて胸が不快になる症状を訴える方がしばしば受診されます。この多くは期外収縮で、本来の脈が出る時期を外して心臓が収縮するために出る症状です。単発のこともあれば、数発連発したリ、正常の脈と期外収縮が交互にする2段脈・3段脈というものもあります。

上室性期外収縮とは心房において正常心拍に横入りしてくるもので、心電図波形は同じになります。
心室期外収縮とは心室で逆噴射する電波なので、心電図波形は大きく反転した形になります。

健康な方にもしばしば見られるものですので、自覚症状がなければ問題はありません。自覚症状が強いもの、1日の回数が多いものおよび心臓そのもののに基礎疾患がある場合は要注意で、治療が必要となります。診断は24時間心電図です。そして、基礎疾患がないかどうかについては心エコーでの精密検査が必要となります。

当院では24時間心電図解析を得意としており、患者様とともに24時間分の心電図をみて、この時間にドキドキしましたかなどとお話ししながら診断していきます。

心エコーについては患者様と映像をみながら、心筋の収縮力や弁膜の状態を確認していきます。

当院の得意分野ですので、不整脈の診断は是非当院をご利用ください。




最新の心不全治療
 
日本人の著しい高齢化に伴い、心不全の患者様が非常に増えております。
心不全パンデミックの時代においては、専門医に丸投げというわけにはいきません。
当院にはかなりこじれた心不全の患者様が近隣病院より数多く紹介されてきております。

その根幹となる原因は高血圧症です。これに脂質異常症、糖尿病、喫煙、過労、睡眠時無呼吸症候群などが加わり、動脈硬化が悪化して、狭心症や心筋梗塞になったり、弁膜症となったり、あるいは高い血圧に長期間さらされることによりその圧負荷に耐えかねて心筋が厚くなり、やがては心臓が大きくなり収縮できなくなったり(収縮障害)、または分厚い心筋の拡張ができなくなり十分な心拍出量が維持できなくなるのです。(拡張障害)
 
高血圧の治療目標は130/80未満ですが、治療中であるにもかかわらず,この基準を維持できている患者様は30%以下にとどまります。
 
高血圧の患者様を診た場合にはまず、塩分の摂取が過多ではないかなど食事内容、運動、仕事内容、ストレス、睡眠、家族状況などについての十分な問診を行います。また家庭での血圧を頻回に測定していただき、家庭血圧と診察血圧との乖離をみます。家庭血圧といいましても、家庭では体も心も落ち着かせて最善の条件で測定していることが多く、高いときは何度も取りなおして、良い値のみを記載されている方が多くおられます。
診察時に160/100程度の方が家庭では125/75ときれいに一直線に記載されている方が多くおられます。その一方で、素直に全ての血圧を正確に記載されてこられる方もおられます。
 
一般的にいきなり降圧剤を処方するということはよほど高いときを除いてはあまりなく、まずは食事および生活指導を行います。
 
診察時の血圧が140/90を何度も超えていると、治療開始に抵抗をしめしていた方たちも治療に積極的になります。
 
ここでは降圧剤の選択というより、心不全にいたってしまった患者様の適切な治療方について説明いたします。
 
心不全というと、神社の階段を登るさいに、息切れがして休み休みとなり他の人に遅れてしまうという症状から、夜間になるとゼイゼイと苦しくなり冷や汗が出て起座呼吸となってしまい、あわてて救急搬送というものです。軽症のものは下肢浮腫がみられる程度です。
 
現在はBNPという心不全マーカーがあり、18以下で正常。18-100までは塩分過多、血圧が高め、軽い不整脈がある、軽い弁膜症があるなどの程度のものがあり、減塩・減量・運動療法・医学的評価をしながら気をつけましょうという程度です。100以上となると、心房細動などの本格的な心疾患で治療が必要となり、500を越えると心機能はかなり落ちてきており慎重な薬物調整が必要、1000を越えたら、本当に苦しくなり、入院治療が必要となるというのが目安です。
 
治療については30年前は利尿剤とジギタリスしかありませんでしたが、時代とともにレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系という血圧によくないホルモン経路を遮断する薬剤が登場しました。(RAS系阻害薬;ACE阻害薬・ARBなどがあります)

さらにβブロッカーという、心拍数を抑えて心臓を休ませる薬剤が有効であることがわかってきました。

SGLT-2という、糖尿病治療薬が脚光を浴びており、血中の糖やナトリウムを腎臓から排除する作用により、血糖を下げるのみでなく、心臓や腎臓の負荷を改善し、糖尿病でなくても、心不全や慢性腎臓病で使用可能となり、大きな成果を上げています。
 
先ほど述べた心不全マーカーのBNPですが、これは心不全マーカーであるだけでなく、心臓に負担があることを察知して余分な体液を腎臓から排出したり、血管を拡張して心臓の負荷を改善する生体物資なのです。
 
新たに開発されたARNI(angiotensin-neprilysin inhibitor)は利尿作用と血管拡張作用のあるBNPの分解を阻害するネプリライシン阻害薬と高血圧の原因となるRAS系というホルモン経路を抑制するARBの複合体でお互いに良い作用を共同作業で達成します。心不全の悪化・再入院率・死亡率の改善が確認されております。薬剤名はエンレストといいます。心不全の治療薬としてのみでなく、難治性高血圧の治療薬としても承認され処方可能となっています。
 
さらにRAS系の最終段階のアルドステロンの代謝をブロックして、尿中のナトリウムの再吸収をブロックする薬剤があります。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA;mineral corcicoid receptor antagonist)と呼ばれています。薬剤名としてはセララやミネブロがあります。
 
この4種類の薬剤をうまく組み合わせることにより、心不全の予後は大幅に改善しました。

ARNI、SGLT-2阻害薬、βブロッカ-、MRAの4剤の組み合わせをファンタスティック4とよびます。
 
これらの薬剤を適切に組み合わせて処方することにより、今後の心不全治療は大きく改善していくと考えられます。




■Samsca conference in Kanagawa 2019


間質性肺疾患および心不全の最新情報についての講演会の報告

 

間質性肺疾患における心不全の有病率と予後に与える影響

 

肺高血圧においては右心系への負荷が増すことにより、右心不全が生じます。

 

慢性肺疾患は元々スモーカーが多く、当然、冠動脈疾患の合併が多くなります。

そして、虚血性心不全およびうっ血性心不全の合併が予後不良の因子となります。

 

特発性肺線維症(IPF)では冠動脈疾患およびうっ血性心不全の合併が多いのですが、冠動脈疾患よりもうっ血性心不全合併の方が予後が悪いことがわかりました。

これは高度の肺線維化により肺高血圧の進行が、心不全と密接に関与しているからでしょう。

 

特発性肺線維症では→呼吸不全・心不全・虚血性心疾患が主な死因となりますが、そのうちでも、肺疾患そのものの進行が最も予後悪化の要因となっています。

 

近年では心臓MRIによる心機能評価がなされるようになっています。

まだまだ難しい分野であり、今後の研究の進歩が待たれます。

 

 

New Era in Congestion treatment

 

Wet and warm型の心不全、すなわち、体液量が多く循環が保たれているが、増量した血管内の体液量が心臓の負担となり心不全をきたしている場合には、ラシックスなどのループ利尿剤をなるべく早く導入して、とりあえず過剰な体液量を減らすのが先決です。

しかし、ラシックスは強力に作用するため循環血液量の低下に伴い腎機能低下やレニンの上昇をきたしてしまうという難点があります。

 

そこで、サムスカの登場です。サムスカは体液のうちの水成分のみを腎をかいして体外に除去しますので、血管内の体液のみでなく、血管から漏れ出た間質や膨化してしまった細胞からも水を引き、緩徐に総体液量を減らします。すなわち、ラシックスのように血管内から強引に体液・電解質を排出して、脱水にして腎機能に悪い影響を与えるということがないのです。体全体から余分な水を引くことにより循環が保たれたまま、心不全がコントロールできるのです。

 

つまり、急性心不全の初期治療はラシックスですが、落ち着いたところで、ラシックスの量は減量して、サムスカの追加により良好なコントロールが得られます。ラシックスは短時間で強力に働くため、長期的にはマイルドに長く効くダイアートを用いた方がよいように思います

 

サムスカは本邦発のうっ血性心不全治療薬であり、尿量を増やし、体重を減らし、腎機能は悪化させないという優れた特性があります。欧米での研究ではそれほどよくないとの結果が出てしまったのですが、投与量が多すぎたりの基本的な使用量の設定な下手なだけであったとのことです。15mgでは腎機能は改善するが、30mgでは悪化したとのことでした。日本人には7.5mgあたりがちょうどよく、利尿剤の減量が可能となってきています。

 

糖尿病治療薬にSGLT-2阻害薬があります。(ジャディアンス・カナグル・フォシーガ・スーグラなど)

 

その作用機序は近位尿細管においてSGLT-2による尿糖の再吸収機構をブロックするため、尿中に大量の尿糖が排出され、それに引きずられるように水が尿に排出されていきます。

 

つまり、単純に水のみを排出する利尿剤の働きが期待できるのです。

この作用はサムスカの効果と非常によく似ています。

これにより、心不全をはじめとした、心臓病を合併した糖尿病の治療薬としては第一選択の地位を確立しています。

 

さらには低血糖をきたさないという観点からは、糖尿病でない患者に投与しても糖代謝には悪影響はなく、心不全の予後を改善することがわかりました。体重が減る・血圧が下がる、脂質代謝が改善する、脂肪肝が改善する、尿酸値が下がるなどメタボの改善効果も得られます。

 

もやは糖尿病の治療薬というよりも心不全の治療薬としての評価が高まっています。

いいことずくめの薬剤ですね。

保険適応ではありませんが、肥満症の方の予後を改善する可能性は大いにあると考えられます。

 

その他の薬剤としてネプリライシン阻害薬が注目されています。

心不全で増加するBNPは強力な心保護作用があるのですが、ネプリライシンはこのBNPを分解する働きがあります。ネプリライシン阻害薬はBNPの分解を抑制することにより心保護作用の強化につながります。そこでアンギオテンシン受容体拮抗薬とネプリライシン阻害薬の合剤としたARNIが登場したのです。

 

すでの欧米では心不全の長期予後の改善の報告がありますが、まだまだ、十分な評価が得られていないのが現状です。

 

また、ibabradineという洞結節のチャンネル阻害剤も開発され、本邦でも処方可能となっています。これは、同結節からの心拍数を減らして心臓を休ませて心機能の回復を図るというものですが、元々あるベーターブロッカーが同様の機序ですでに存分に働いているため、その出番は少ないのではと思われています。心拍数が70以下にコントロールできない場合の心不全が適応となるのですが、ほとんどがベーターブロッカーにて達成されてしまうのです。今後の検討が待たれる薬剤です。洞調律に働く薬剤ですので心房細動には使用できません。

 

HFEFとは心拍出量が保たれているが、心室の拡張障害があり、肺へのうっ血が生じ心不全を併発してしまうものです。学会でも毎回取り上げられるホットな話題ではあるのですが、今のところ有効な薬剤がないという厳しい現状があります。

 

ただしHFrEF(心拍出量が低下した心不全)の予後は段階的に悪化していくという観点から非常に悪いのに比し、HFpEFでは時々入院治療を要する程度ですので、末期的な心不全に比べればまだよいといえます。

 

このHFpEFにおいてもサムスカは有効とされています。

肺動脈圧をモニターしながら利尿剤の調整をこまめに行うなども治療も試みられていますが、まだ、実験段階といるでしょう。

 

最新の話題として、僧帽弁閉鎖不全症をカテーテルにて治療するマイトラルクリップがすでに広まってきています。

また、左心房の負担を改善するための心房シャント作成デバイスが臨床応用されています。

 

さらに、重度の心不全にはHeart Mate3という、補助人工心臓が進化しており、日本のように心臓移植までのつなぎというよりは、欧米においては生涯にわたり器具を装着したままで長期の生存が得られています。

 

2019/12/5  横浜にて



■発作性上室性頻拍

突然にドキドキとして脈が規則的に速くなり、一定の時間にわたり持続し、突然止まるのが発作性上室性頻拍の特徴です。

頻脈発作は数分のこともあれば、数時間続くこともありますが、何日も続くということはありません。そして、動悸の発作は急に止まります。『あっ、また動悸がはじまった。』『おお、止まった!』というように発作の始まりと終わりがわかるのが特徴です。

原因は心臓内の電波の伝導路に異常な回路が存在し、それを介してループを作り、そこで脈の信号がグルグルとまわって止まらなくなってしまうのです。これをリエントリーといいます。

発作性上室性頻拍には、異常な回路の部位により房室回帰性頻拍、房室結節リエントリー頻拍、心房頻拍などと分類されます。

このうち房室回帰性頻脈はWPW症候群という有名な疾患に伴って生じ、平常時から心電図異常が認められますので、診断しやすいといえます。

そのほかのものは発作時以外の心電図は正常なのでわかりにくいです。リエントリーの部位や方向についての診断に関しては大変複雑で不整脈の専門医でなければ、なかなか難しいです。

発作は急に、前兆なく生じるので、「突然脈がはやくなった」というのが代表的な症状です。これにより動悸、息切れ、胸の不快感が出現します。脈が極端にはやく、心臓が効率よく動けなくなると、血圧低下や失神などの重い症状がでることもまれにあります。

診断は心電図で行います。
何度も症状を訴えているにもかかわらず、受診時には心電図異常がなく、確証が得られないままに数年が経過してしまうということもまれではありません。

発作が起きていないときの心電図では特に異常が見つからないことが多いため、発作がおきたときの心電図をしっかり記録することが重要です。発作時に緊急で医療機関を受診して心電図で記録することが第一ですが、実際には確証が得られないことが多く、ホルター検査(24時間心電図)を繰り返してもわからないことがあります。そのため携帯型心電図を利用することもあります。

多くの発作性上室性頻拍は基質的心疾患を伴いませんが、治療にあたり心機能や肝臓・腎臓の機能を把握することが重要であり、胸部X線撮影や心エコー図検査、血液検査なども並行して行います。

確定診断のためにはカテーテル検査を用いた電気生理的検査を入院の上で行う必要があります。ただし、年に1回生じる程度の軽症者には、そこまでの検査は要求されないこともあり、以下のように薬物治療が選択されます。

薬物治療としては、発作がおきてから薬を飲んで早く止める方法(発作時頓服; pill in the pocket)と、普段から薬を飲んでおいて発作をおこしにくくする方法(予防的定期内服)があり、症状の強さや発作頻度によって薬剤の選択・使用方法を決定していきます。

根治的治療としてはカテーテルアブレーションがあります。異常な電気回路をカテーテルを用いて焼灼し遮断するのです。

発作性上室性頻拍に対するカテーテルアブレーションは非常に高い成功率が得られており、ほとんどの方が治癒いたします。安全性も確立してきており、全身状態的にカテーテル治療が可能である場合には、トライした方がよいでしょう。

2019/10/25

■心房細動にであったら???

◆心房細動について
心房細動は中-高齢者にしばしばみられる不整脈で、医療者側から見るとよくみるありふれた不整脈です。日本での罹患率は1~1.5%でおおよそ150万人の患者さんがいると推定されています。80歳以上の高齢者になると女性の4%、男性の8%もの患者さんがおられます。
 
心房細動とは心房内に大小不同の細動波が生じ(f波といいます)、それが不規則に心室に伝わるため、心拍が不規則になるものです。
 
心拍数が速くなるとドキドキする、脈が乱れているということで自覚されることもありますが、心拍数が100以下では無自覚のこともしばしばあります。
 
心房細動の一番の問題点は、心房がきちんと収縮しないことにより心房内の血流が極端に遅くなりうっ滞するため、左心房というところに血栓を生じてしまうことです。その血栓が心臓から剥離され脳の血管に詰まると脳塞栓症という重症の脳梗塞を発症します。その予防として、あとで述べる抗凝固療法が必要となることがあります。
 
もう一つの問題点は徐々に心機能が落ちてきて、心不全の状態になることです。労作により息切れがして、日常生活もままならぬことになります。
 
心房細動になる原因はさまざまで、心臓に負担となる要因が長年にわたり重なると発症してきます。高齢、高血圧、心臓弁膜症、心筋梗塞、心筋症、バセドウ病などが主なものです。
一過性の原因としては脱水、過度の運動、過労、アルコールの多飲などもあげられます。
 
◆心房細動の治療
治療法として心拍の乱れはそのままに心拍数を頻脈にならないように適正にコントロールすることをレートコントロールといます。一方、抗不整脈薬を用いてリズムそのものを正常に維持することをリズムコントロールといいます。普通に考えれば、リズムコントロールを行った方が予後が良いように思われますが、抗不整脈薬の副作用の問題や確実に効いているか、服薬が守られているかどうかなどの問題があり、いずれの治療でも予後に差がなかったとのことで、結論付けられています。
 
最近はアブレーションといって不整脈の起源となる部位をカテーテル焼灼により隔離してしまう方法が進歩しており、根本治療として広まっております。ただし、アブレーションは超専門医の行う治療であり、上手にできる施設はかぎられています。近隣では横須賀共済病院が最も症例が多く、当院からも多くの患者さんがお世話になっています。湘南鎌倉総合病院、平塚共済病院でも技術的にはひけはとりません。
 
また、アップストリーム療法といって、基礎疾患の治療をきちんと行うことにより、心房細動になりにくくする療法もあります。具体的には高血圧に対し心筋にもよい働きがあるとされるARB/ACE阻害薬という部類に属する降圧剤を用いたり、高コレステロール血症に対し動脈硬化抑制作用のあるスタチンを用いたりすることです。
 
◆抗凝固療法について
心房細動で脳塞栓症を生じると広範囲の梗塞となり、出血性梗塞を合併するなど重症化しやすいことが知られています。1年後の生存率は50%程度と推察されています。
 
心房内血栓が脳塞栓症を生じる可能性については、そのリスクを予測する指標があります。
1.心不全の既往(1点)、2.高血圧(1点)、3.高齢(75歳以上)(1点)、4.糖尿病(1点)、5.脳梗塞の既往(2点)などがあるとリスクが高まり、以上が2個以上重複してある場合(計2点以上)、あるいは脳梗塞の既往がある場合(2点)はそれだけでも抗凝固療法の適応となります。ややこしいようですが計2点以上で抗凝固療法が必要ということです。
このスコア(CHADS2 スコア)で2点以上だと年間の脳塞栓症発症リスクが4%と高くなるため、治療の対象とされているのですが、1点でも2.8%の脳塞栓症が発症しています。また、脳塞栓症発症者の内訳では1点以下が33%で実数では無視できない数でした。そのため、2点未満でもなんらかのリスク要因がある場合には、抗凝固療法の適応となります。
 
これまでは、抗凝固薬にはワルファリンという薬剤しかなく、ビタミンKにより効果が中和されてしまうため、納豆が食べられない、野菜の量を一定にしなくてはならない、投与量が適正かどうかを血液検査でモニターしなければならないなど大変面倒でした。
近年開発された直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)はこのような面倒くささがなく、投与量は患者さんの年齢、体重、腎機能などで決められるため、非常に使いやすくなりました。
効果においてはワルファリンに劣ることはなく、安全性においては優れているというデータが出ています。このため上記のような脳塞栓症の発症リスクが少ない場合でも、DOACが処方されるようになりました。
 
実際にワルファリン服用中の患者さんが脳出血を合併した場合では、当初の出血が小さくても出血が持続して重症化することがしばしばですが、DOACの場合は、発症時の出血が小さければおおごとにならずにすみます。
 
薬剤としてはリクシアナ、エリキュース、イグザレルト、プラザキサなどがあり、それぞれ少しずつ特徴があり、何を選択するかは患者さんの状況、理解度、ライフスタイルなどを主治医が把握したうえでよく相談して決めていくことになります。簡単に述べますと、リクシアナとイグザレルトは1日1回ですむので簡便、エリキュースは出血などの合併症が少なく安全性において優位にある、プラザキサは中和剤があり出血や緊急手術に際してのコントロールがしやすいなどの特徴があげられます。
 
抗凝固療法は諸刃の剣といえます。脳塞栓症の予防効果がある一方で頭蓋内出血、消化管出血、外傷などで出血が始まってしまうと止まらなくなります。主治医が上手に処方していくことも大切ですが、患者さんも病気や薬剤のことを理解してなるべく合併症が生じないように注意していく必要があります。
 
◆発作性心房細動と持続性心房細動
心房細動がときどきみられるものを発作性心房細動といいます。自覚症状がなくても知らないうちに心房細動を繰り返していることもあります。一方、常に心房細動のものを持続性心房細動といいます。発作性と持続性とで脳塞栓症のリスクに差はありません。
発作性心房細動は時々心房細動になったり、洞調律に戻ったりを繰り返すものですが、心房細動から洞調律に戻り心房筋の収縮力が回復してくると、血栓が剥がれやすくなるのです。ですから、発作性心房細動でも脳塞栓症の予防のため抗凝固療法を継続していく必要があります。
 
◆抗凝固療法の副作用対策
血圧管理が不十分ですと脳出血のリスクがあります。血圧は家庭での測定が重要であり、血圧手帳をつける習慣を持ちましょう。主治医の指示をよく守り、減塩、適度の運動、降圧剤の服用をきちんと行っていきましょう。
胃がんや大腸がんにおいては出血の原因となります。また、バイアスピリンなどの抗血小板薬を併用すると消化性潰瘍や出血性胃炎の合併も生じやすくなります。
できれば消化管の検査は受けておいたほうが良いでしょう。
胃にピロリ菌がいた場合には除菌しておいたほうが良いと思われます。
転倒による外傷出血、頭蓋内出血も大変危険です。その原因となるフレイルについては次項で述べたいと思います。
 
◆高齢者の心房細動 (フレイル、骨粗鬆症、認知症との関連)
ENGAGE AF-TIME 48という研究において、ワルファリン群、リクシアナ群(1日1回のDOAC)ともに、高齢になるほど脳卒中および全身性塞栓症、および大出血の発現率が上昇していました。
そして両者を比較するとリクシアナはワルファリンに比し安全性において劣ることはなく、75歳以上の患者において年間に1万人当たり144件のイベントを減らす結果が出ています。高齢者の抗凝固療法においてDOACのワルファリンに対する優位性が示されたものと思います。この研究ではリクシアナの1日1回という簡便性とリスク回避のための明確な減量基準がメリットを発揮したものと思われます。
 
高齢者の心房細動がどうして危険かというとフレイルの問題と認知症があげられます。
高齢者が足腰が弱り、筋肉量が減り、活動量が減少してしまうことをフレイルといいます。日本は超高齢者社会ですが、介護を必要とする方も多く単純に喜べない状況です。転倒などで頭を打つと頭蓋内出血が生じ、重症化することがあります。フレイルな心房患者さんの死亡率が2.3倍になるというデータがあります。
 
寝たきりになるのを予防するにはフレイルとともに骨粗鬆症の予防と治療も重要です。デイサービスや家庭でのリハビリ、規則的に散歩をするなど、運動療法が大切で有酸素運動のみでなく適度のレジスタンス運動も組み入れていく必要があります。また、高齢者は蛋白質を敬遠する傾向がみられますが、蛋白質をとらないと筋肉量が減ってしまいます。肉を好んで食べる老人は元気ですよ。これらはむしろ、さらに若いうちからの取り組みが大切ですね。骨粗鬆症の治療薬は有効なものがいろいろとラインナップされております。治療は早期から始めた方が効果的です。腰が曲がってしまってからでは遅いですね。
 
また、認知症も大きな問題です。薬を飲んだかどうかわからない?薬の飲み忘れもいけませんが、薬を2回分飲んでしまったらどうでしょうか?認知症を合併した心房細動の患者さんの死亡率は一般住民の3倍高いといわれています。認知症の患者さんについては家族による薬の管理がきちんとできない場合、抗凝固療法は行うべきではないでしょう。
 
80-84歳での心房細動の患者さんは認知症罹患率が一般住民の2倍高いといわれており、その理由の一つに心房細動のもたらす無症候性脳梗塞が脳血管性認知症を引き起こしている可能性が考えられています。心房細動で認知症になりやすい、認知症合併の心房細動は死亡率が高いという、魔のシナリオができてしまいます。
 
骨粗鬆症や認知症の進行は女性ホルモンの減少とも大きく関与しています。女性の場合はいかに更年期をうまく乗り切るかが大切で、場合によっては低用量ピルなどでのホルモン補充療法をうまく行っていくことで更年期以降の生活が大きく変化するといえるでしょう。
 
日頃から規則的に運動して水分を適度にとり、血栓ができにくくしておくことも大変重要です。EPAを多く含む青魚もつとめて食べるように心がけましょう。
 
2016/11/6