収縮期高血圧と脈圧の拡大について
収縮期高血圧とは大動脈などの太い血管で動脈硬化が進行しているため、心臓が収縮し血管が心拍出を受け入れる際に硬くなった血管が拡張することができず、血圧が上がってしまうものです。
その場合、心拡張期で血流がこなくなったときには血管が収縮できずに血圧が低くなってしまいます。
すなわち、血圧160/60というように脈圧が拡大してしまいます。
患者様より『拡張期血圧は低いんですけどね・・・』という言葉がしばしば聞かれますが、実はこれは非常に悪い兆候なのです。
強い動脈硬化が進行していることを示すもので、脈圧の拡大は循環がよくないことを示します。
収縮期高血圧と脈圧の拡大は動脈硬化の進行した高齢者に見られ、心筋梗塞や脳梗塞・脳出血などの心血管病の主要リスクとなり、心不全の発症とも相関しています。
大動脈などの太い血管には弾性線維が多く存在し、弾性血管ともいわれており、交感神経やアンギオテンシンⅡなどの神経体液性因子による調整の関与が少ないです。そのため、降圧剤の選択としては血管を拡張させる作用の強い『カルシウム拮抗薬』や過剰な塩分による体液量を調整する『利尿薬』が有効であることがわかっています。
病態を理解した上での適切な降圧剤の選択が必要です。
2019/11/3
高血圧はねばってはいけない
皆さんは適正血圧がいくつか御存知ですか?
至適血圧はなんと120/80mmHg未満なんですよ。
本邦における高血圧患者は4300万人と予想されています。
そのうちどれだけの人がきちんと管理されているか?
きわめて疑問ですね。
それでも日本人の平均寿命は世界トップレベルであり、以前に多く見られた、脳出血の患者さんが
著しく減っております。そこそこ管理されているということですね。
私も医師になりすでに32年もの歳月がたちました。それでも、初めて救急外来に立った日のことは鮮明に覚えています。
患者さんは脳出血、意識はなく、すでに呼吸も止まっていました。心臓は動いていたため、気管内挿管をおこない、人工呼吸器を取り付け、集中治療室(ICU)にて懸命に治療を行いました。
その当時は救命が第一とされていたため、脳内の血腫が大きい場合には脳外科手術も行われていました。しかし、救命はできても機能の回復は望めません。言葉は悪いですが患者さんは植物状態です。
そこまで悪くなくても、麻痺や構語障害、判断力の低下などさまざまな後遺症がのこり、大変不自由な生活がまっていました。家族の負担は厳しく、介護と経済的な困窮から、奥さんは働きずめ、子供は進学をあきらめてバイト生活、なかには不良化もおり、家庭崩壊に至るケースもまれではありませんでした。
患者さんが40歳代からこのような例は多々ありました。その方たちはほとんどが高血圧を指摘されていましたが、放置してきた方々でした。
現在は脳出血はほとんど見られず、高齢者の脳梗塞はありますが、これも適切な予防的治療により激減しています。
若年者でも血圧が140/90を超えている方が多くおられます。
このような場合、家庭血圧の記録をお勧めしております。
特に朝の血圧が135/85を超えている場合は、減塩、運動療法などの生活指導を行い、改善しない場合には降圧剤を考慮いたします。
降圧剤の適応は、生活習慣の指導を行っても早朝血圧が135/85mmHgを超えている場合、診察室血圧が140/90mmHgを超えている場合です。
基礎疾患により降圧目標が異なります、詳しくは外来診療の際に個々にお話ししております。
しかしながら、明らかに治療が必要となっているにもかかわらず、いまだに頑強に治療を拒否する方がおられます。
日本人の寿命が延びておりその大きな要因が血圧管理にあること、実際に脳出血の患者さんを見かけることがほとんどなくなってきていることを説明してもわかってもらえません。
『いったん薬を始めたら一生飲まないといけないんですよね?薬は飲みたくないんです。』ほとんどの方が、この言葉を発せられます。
命にかかわる疾患にかかったとして、治療法がないといわれたら、絶望的になるのではないでしょうか?高血圧は命にかかわる疾患です。しかし、早期からの診断は容易で、しかも良い薬がたくさんラインナップされているのです。なんとありがたいことではないでしょうか?
『薬を飲まなくてはならないのではなくて、ありがたく飲ませていただくのです。とても良い薬があり、それを、国家の補助を得て大変安く処方してもらえるのですよ。これほどにきちんと高血圧を管理できている国は日本だけです。ありがたいと思いませんか?』
それでも受け入れられない方もたくさんおられます。
そのような方が、あるとき親戚のかた、会社の上司、同僚などと話をしているとき『俺だって飲んでるよ。血圧はバッチリ正常値で安心だよ。』『ちゃんと飲んだほうがいいに決まってんじゃん。そんなのいろんな本や新聞にかいてあるだろ。』『お前、医療番組見てないのかよ!血圧高いなら下げなきゃダメだろ!』なんて状況になり、ある日突然『やっぱり治療を受けることにしました。よろしくお願いします。』なんて展開になるんですね。
薬を始めてみたら血圧は安定して安心でき、特に薬に関する違和感などもなくて、副作用もなし、こんなことならもっと早く始めておけばよかったと思うようになります。以後は安心感も増して潜在的な不安感も取れ、医療に対する不信感もなくなっていくものです。不機嫌だった患者さんが、血圧手帳を片手に上機嫌で外来に来てくれるようになります。
治療はなるべく早く始めたほうが良いのですが、当人が納得していない場合、途中で薬をやめてしまったり、突然来なくなってしまったりで、ときに最悪の結果が待っていることがあります。
『いまどき高血圧で粘る人はあまりいませんよ。薬を飲んでいても何ともないから、とりあえず少しだけ飲んでみたらどうですか?体に合わないようならいかようにも調整しますから大丈夫ですよ。』
当方は患者さんの気持ちの変化を聞きながら、高血圧の病態について繰り返し説明し、説得を続け、理解が得られるまで待ち続けます。
『聴く力、続ける力、待つ力』、糖尿病学の大御所である石井均先生の言葉にも通じるものがありますね。
高血圧診療なんて簡単なようですが、結構苦労しているんですよ。
すべては患者さんのために・・・
2016/11/14
■日本初の3剤併合の高血圧治療薬『ミカトリオ』
降圧治療薬は様々な種類があり、作用点が異なります。
血圧を適正に保つという目的は同じですが、患者さんの病態に応じて、
適切に選択していく必要があります。
本邦ではARBという範疇に属する薬剤が広く使われております。
レニン-アンギテンシン系という腎臓からのホルモンを抑制することにより、
アンギオテンシンⅡによる強力な血管収縮、体液貯留、交感神経活性を抑制することにより、降圧作用を発揮します。
心臓、腎臓などの臓器保護作用、糖尿病の新規発症を抑制する作用などメリットが多く、
降圧作用も強く、安全性が高いため広く用いられています。
そのひとつに『ミカルディス』があります。
Ca拮抗薬はさらに古くから広く用いられている薬で、末梢血管を拡張することにより、降圧作用を発揮します。効果は早く、確実に効くのが特徴で第1選択薬としてもよくつかわれています。アムロジンがその代表ですが、これしか処方したことがないなどという医師もいるくらいに安全性が高く有名な薬です。
単剤で血圧が十分に下がらないときは、この両者を併用して用いることが多くあります。
また、第3の選択肢として降圧利尿薬があります。
体の塩分を尿から出してしまう薬で、塩分過多の方、むくみがちの方などに有用です。
米国では広く用いられておりますが、カリウムやナトリウムが低下する、尿酸が高くなる、糖尿病が悪化する、脱水になることがあるなど副作用の点から、日本での使用は慎重でした。
しかし、上記の2剤にごく少量の利尿剤を併用すると、副作用が増えることなく大変良い効果が得られることがわかり、しばしば併用されるようになりました。注意深く利用すればよい効果が得られ大変良い処方です。
これらが配合剤として使用されるようになり、ミカルディスとアムロジンの合剤を『ミカムロ』、ミカルディスと利尿剤の合剤を『ミコンビ』といいます。ミカルディスの含量によりAP剤とBP剤が存在します。AP剤はミカルディス40㎎、BP剤はミカルディス80㎎を含みます。
このたび承認された『ミカトリオ』は、ミカルディス80㎎、アムロジン5㎎と少量の利尿剤(ヒドロクロロチアジド)を含んだものです。
いきなりミカトリオを処方することは許可されておりません。基本的にはミコンビBPを使用中で、さらに降圧が必要となり、アムロジンを一定期間併用し、処方が安定したのを確認したうえではじめてミカトリオが処方可能となります。
あるいはミカムロBPを投与中でさらなる降圧のためにヒドロクロロチアジドを併用して、処方が固定されたらミカトリオを処方することも可能です。
高血圧の薬を3剤服用というと多いように感じる方もいるかもしれませんが、難治性高血圧の方や、心血管病などの合併症のある方ではしばしば必要となります。
これらが1錠ですむのですから服薬の負担がすくなくなり、間違いもなくなるでしょう。
薬の飲み忘れや薬が嫌だといってやめてしまう問題もすくなくなります。
薬局での医療費も安くなります。
ミカトリオは本剤に対し過敏性のある患者、妊婦、肝障害のある患者、透析中の患者、急性腎不全の患者には投与できません。
またラジレス(レニン阻害薬)服薬中の糖尿病患者には副作用が出やすく投与できません。
現在すでに上記3剤を併用投与されている方には大変な朗報ですね。
2016/10/30