日本リウマチ学会学術集会に参加して参りました
関節リウマチの診断から最新治療まで、しっかり勉強してきました。
今回は特に『関節エコーのハンズオンセミナー』に参加しましたので、
リウマチを中心とした関節疾患のエコー診断について、しっかり研修ができました。
2024/4月 神戸にて
肺がんを見つけるための胸部読影について
胸部写真の読影のポイント2020年
東京ミッドタウンクリニック
(前:神奈川県立がんセンター)
山田耕三先生
山田先生の胸部読影についての講義を拝聴するのはこれで3回目となる。
2018年10月に開催された神奈川県保険医協会での講義に参加して、大変勉強になったので、2019年秋には、肺がん画像診断セミナー(寺子屋式の少人数グループに分けての集中講義)に参加して、朝から晩まで2日間缶詰状態でみっちりと絞り込まれた。
夕食会のパーティの場でも、若手とベテランの対抗戦で診断クイズに熱中し熱い議論を交わしたのを思い出される。
肺尖、骨と重なった部位、縦隔で血管と接した部位、心臓の裏側、横隔膜に隠れた部位などの病変は見逃されやすい、ほんの微細な変化なのに、実はがん、なかには相当に進行したがんでも、胸部や単純写真ではわかりにくいことが多々ある。肺野末梢のわずかな索状陰影は通常は陳旧性の瘢痕として、問題なしとされてしまうが、実は肺がんの胸膜牽引の所見であることもある。
肺がん検診は無意味ではないかとの議論が30年も前から繰り返されてきた。特に米国では検診を推奨してこなかったが、最近ではCTでの肺がん検診が盛んに行われており、早期発見率が格段によくなり、手遅れにならないうちに早期治療がなされている。
また、生命予後も改善しており、これは肺がんの早期発見のみならず、冠動脈の石灰化が発見され、心血管病進展予防・早期治療によるところが大きい。
少しでも疑われたらCTをとる、小さな病変でもしっかりとフォローして3ヶ月後には再検する。CT検診を積極的に導入していく取り組みなどが必要と協調されました。
ついでながら、コロナウイルス感染の肺炎像も多数見せていただき、大変勉強になりました。
今年はコロナの影響で寺子屋は開催されませんでしたが、来年も参加してさらに、自らの診断能力を高めていきたいと、大いに勉強意欲を触発された講演会でした。
2020/10/30 横浜にて
鎌倉逗葉認知症フォーラム
認知症の予防と治療について
国立長寿医療研究センター 遠藤 英俊 先生
認知症の疫学、予防法、治療法についての詳しいレクチャーでした。
これまで認知症について多くの講演を聴いてまいりましたが、今回の講演は最も実践的で有用でした。
65歳以上では認知症リスクが急増します。
また、軽度のもの忘れ程度であるMCI(mild cognitive impairment)は400万人おり、年間10%が認知症に進展していきます。
その意味で認知症への進展予防と早期発見および早期治療は非常に重要です。
診断においては長谷川式簡易知能評価スケールが有用ですが、忙しい外来診療のなかでかなりの時間が割かれます。
また、MRIや脳血流シンチなどの画像診断も必要です。
MRIでは海馬の萎縮が特徴的です。
一方、血管性認知症では脳梗塞/脳出血の痕がみられたり、脳血流シンチで脳血流の不均衡がみられます。
レビー小体型についてはMIBG心筋シンチが有用です。本来は心臓の検査ですが交感神経機能の低下がわかり、レビー小体型認知症ではほとんど取り込まれません。
パーキンソンの合併も多く、DATスキャンが有用です。
運動や知的活動およびバランスのとれた栄養は認知症の予防に効果があります。
脳にアミロイドが沈着すると認知症が進行しますが、動脈硬化があると悪化しやすいことがわかっています。運動をしたり頭を使うこと、また、生活習慣病の治療など動脈硬化対策が認知症予防に重要です。
運動療法としてはウォーキングに知的活動を加えたものがよく、ゴルフなど運動と知的
活動を含めたものが有効です。私はご高齢の方々とテニスをする機会が多いのですが、明らかに認知機能の優れた方たちが多いことを実感しております。運動しながら瞬時の判断が求められ、戦略を考えたり、カウントもしなければなりません。体も頭も使います、認知症予防には最適と思っております。
講演のなかでは読書、楽器、ゲーム(麻雀など頭を使うもの)、社交ダンスもお勧めとのことでした。社交ダンスでは運動のみでなく『ときめき』もあるからとのことでした。
食事ではビタミンC、E、βカロチン、DHA/EPA、ポリフェノール、地中海料理(オリーブ油)、ウコンに含まれるクルクミンがよいとのことです。
遠藤先生はカレーライスを週に数回食べることによりウコンを摂取して自らの認知症を予防されています。自らレトルトカレーを開発して商品化したとのことですので驚きですね。
脳へのアミロイドの沈着を減らす抗アミロイドβモノクローナル抗体(Aducamumab)が開発されており、今後、軽症の認知症の進展予防に認可される方向にあります。
現在の治療薬は神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを強める薬(アリセプト、レミニール、リバスタッチ/イクセロン)と脳神経細胞の混乱を抑える薬(メマリー)の2系統があります。
前者はもの忘れに加え、うつ、不安、無関心など精神活動の低下した状態に適しています。
まれに徐脈が生じることがあり、心電図などの循環器的なチェックが必要です。また、容量の増多に伴い易怒性・攻撃性が増すことがあり、容量調整に注意が必要です。
この場合にメマリーを追加するとうまくコントロールできます。また、漢方薬の抑肝散もよく併用されます。周辺症状が著しい場合には向精神薬の併用を余儀なくされる場合もあります。
リバスタッチ/イクセロンはアリセプトに比し副作用が少ない傾向にあり、食欲が増すという副次的効果があります。貼付剤であり皮膚掻痒の問題がありましたが、製剤の改良がみられています。
レミニールは半減期が短く1日2回の内服を要します。効力はマイルドであり、その分、副作用は少ないので容量調整がしやすいといえます。
メマリーは易怒性や攻撃性に有効です。
アリセプトなどにて易怒性や攻撃性が生じたときには、メマリーの併用が有用です。また、アリセプトなどで治療効果が不十分なときには早期に併用することにより認知症の進展を遅らせることができます。
認知症の治療はもの忘れが治るわけではなく、その進展を遅らせるものなので、ご家族にしてみればなかなかその効果が理解できないかもしれませんが、多くの患者様を診させていただいている立場では、その効果は明らかです。
治療効果を確認しつつ容量調節・薬剤の併用、周辺症状に対する治療を行っていかなければならず、ご家族に対するケアにも多くの時間がさかれます。
2020/2/17 鎌倉にて
肺高血圧症の治療の進歩と早期診断の重要性
小野 文明先生 三保町内科・循環器科クリニック
肺高血圧症は比較的まれな疾患で、日常診療ではなかなか診断されていない疾患です。
小野文明先生は開業医でありながら、この疾患の第一人者であり、病院から紹介されたり、入院中の患者さんの診察を依頼されたりと、大変活発に肺高血圧症の診療にあたっておられます。
労作時の息切れ、下肢浮腫、半坐位での頚静脈怒張、頻脈、呼吸数の増多、心音でのⅡ音の亢進、低酸素血症などをヒントにして、まずは心エコーにて見落としをしないことが大切です。
原因・病態は複雑であり、その診断・治療も超専門的な分野ですので、診断をしっかりしたうえで専門医への紹介が重要です。
2020/2/8 横浜にて
漢方使いこなし ~実技編~
福原 慎也先生 えのもとクリニック
漢方診断および治療のうち、今回は舌診と腹診について実技を交えて学びました。
舌診では舌の形・大きさ・色、舌苔の正常・色、舌裏の静脈、舌の乾燥、舌の出し方を診ていき、診断に役立てます。
腹部の診察についてはさらに詳しい説明があり、実技も踏まえて、このような症状・所見にはこんな漢方が良いという実践的な講義が受けられました。
昨今、漢方治療はちょっとしたブームであり、患者さんが希望される場面も多く、ブラッシュアップが必要と感じています。
2020/2/7 大磯にて
湘南脳卒中フロンティア講演会
心房細動治療のイノベーション
~生命予後改善と寝たきり防止を目指して~
奥村 謙先生
済生会熊本病院心臓血管センター 循環器内科 不整脈先端治療部門
心房細動・心不全・死亡の関連、その適正治療について、心房細動治療の第一人者である奥村謙先生の詳細かつわかりやすい講演でした。
講演内容では触れられなかったのですが、当院での経験を踏まえての講演後の私の質問により、慢性心房細動の場合、アブレーションの前に電気的除細動(いわゆる電気ショック)を試みて、洞調律に戻らなかったものはアブレーションの成績が悪いので、避ける傾向があるとのお話がありました。すなわち高齢者の慢性心房細動についてはアブレーションの適応は厳しいということです。
それでも比較的若年者の場合には、数時間かけても頑張っているというお話もありました。
薬物による心拍数のコントロールと洞調律維持の成績は変わらなかったとのことですが、アブレーションによる除細動が適正に行われれば、予後がよいのは明らかなことですので、日常診療でも無症状の心房細動をしっかりと拾い上げていくことが大切との確認ができました。
2020/1/30 湘南慶育病院にて
湘南潰瘍性大腸炎治療セミナー
潰瘍性大腸炎治療の基本薬 ~5-ASA製剤をどう使うか
横山 薫先生 北里大学
潰瘍性大腸炎はかつては難病とされ患者のみならず医師も大変苦しむ病気でしたが、今や本邦でも20万人の患者さんがおり、コモンな疾患として位置付けられています。
その治療薬の基本は5-ASA製剤でサラゾピリンにはじまり、ペンタサ、安倍首相で有名となったアサコール、さらにリアルダが登場し、薬剤を大腸まで届けるためのデリバリーシステムの工夫に特色があああります。
また、難治例に有効性の高いバイオ製剤も多数選択可能となっています。
様々な選択肢があることより、個々の患者様に対しての最適治療が選択可能となっております。
2020/1/16 藤沢にて
Samsca conference in Kanagawa 2019
間質性肺疾患における心不全の有病率と予後に与える影響
肺高血圧においては右心系への負荷が増すことにより、右心不全が生じます。
慢性肺疾患は元々スモーカーが多く、当然、冠動脈疾患の合併が多くなります。
そして、虚血性心不全ないしうっ血性心不全の合併が予後不良の因子となります。
特発性肺線維症(IPF)では冠動脈疾患およびうっ血性心不全の合併が多いのですが、特に、うっ血性心不全合併の方が予後が悪いです。冠動脈疾患合併の予後に与える影響は比較的少ないです。
これは高度の肺線維化により肺高血圧の進行が、心不全と密接に関与しているからでしょう。
特発性肺線維症では→呼吸不全・心不全・虚血性心疾患が主な死因となりますが、そのうちでも、原疾患の進行が最も予後悪化の要因となっています。
近年では心臓MRIによる心機能評価がなされるようになっています。
まだまだ難しい分野であり、今後の研究の進歩が待たれます。
New Era in Congestion treatment
Wet and warm型の心不全、すなわち、体液量が多く循環が保たれているが、増量した血管内の体液量が心臓の負担となり心不全をきたしている場合には、ラシックスなどのループ利尿剤をなるべく早く導入して、とりあえず過剰な体液量を減らすのが先決です。
しかし、ラシックスは強力なため循環血液量の低下に伴い腎機能低下やレニンの上昇をきたしてしまうという難点があります。
そこで、サムスカの登場です。サムスカは体液のうちの水成分を腎をかいして体外に除去しますので、血管内の体液のみでなく、血管から漏れ出た間質や膨化してしまった細胞からも水を引き、緩徐に総体液量を減らします。すなわち、血管内から強引に体液・電解質を排出して、脱水にして腎機能に悪い影響を与えるということがないのです。体全体から余分な水を引くことにより循環が保たれたまま、心不全かコントロールできるのです。
つまり、急性心不全の初期治療はラシックスですが、落ち着いたところで、ラシックスの量は減量して、サムスカの追加により良好なコントロールが得られます。ラシックスは短時間で強力に働くため、長期的にはマイルドに長く効くダイアーとを用いた方がよいように思います
サムスカは本邦初のうっ血性心不全治療薬であり、尿量を増やし、体重を減らし、腎機能は悪化あせないという優れた特性があります。欧米での研究ではそれほどよくないとの結果が出てしまったのですが、容量が多すぎたりの基本的な使用量の設定な下手なだけであったとのことです。15mgでは腎機能は改善するが、30mgでは悪化したとのことでした。日本人には7.5mgあたりがちょうどよく、利尿剤の減量が可能となってきています。
糖尿病治療薬にSGLT-2阻害薬があります。(ジャディアンス・カナグル・フォシーガ・スグラなど)
その作用機序は近位尿細管においてSGLT-2による尿糖の再吸収機能をブロックするため、尿中に大量の尿糖が排出され、それに伴い水が尿に排出されていきます。
つまり、単純に水のみを排出する利尿剤の働きが期待できるのです。
この作用はサムスカの効果と非常によく似ています。
これにより、心不全をはじめとした、心臓病患者の糖尿病の治療薬としては第一選択の地位を確立しています。
さらには低血糖をきたさないという観点からは、糖尿病でない患者に投与しても糖代謝には悪影響はなく、心不全の予後を改善することがわかりました。体重減少・血圧低下、脂質改善、脂肪肝改善、尿酸改善などメタボの改善効果も得られます。
もやは糖尿病の治療薬というよりも心不全の治療薬としての評価が高まっています。
いいことずくめの薬剤ですね。
保険適応ではありませんが、肥満症の方の予後を改善する可能性は大いにあると思っています。
その他の薬剤としてネプリライシン阻害薬が注目されています。
心不全で増加するBNPは強力な心保護作用があるのですが、ネプリライシンはこのBNPを分解する働きがあります。ネプリライシン阻害薬はBNPの分解を抑制することにより心保護作用の強化につながります。そこでアンギオテンシン受容体拮抗薬とネプリライシン阻害薬の合剤としたARNIが登場したのです。
すでの欧米では心不全の長期予後の改善の報告がありますが、まだまだ、十分な評価が得られていないのが現状です。
また、ibabradineという洞結節のチャンネル阻害剤も開発され、本邦でも処方可能となっています。これは、同結節からの心拍数を減らして心臓を休ませて心機能の回復を図るというものですが、元々あるベーターブロッカーが同様の機序ですでに存分に働いているため、その出番は少ないのではと思われています。心拍数が70以下にコントロールできない場合の心不全が適応となるのですが、ほとんどがベーターブロッカーにて達成されてしまうのです。今後の検討が待たれる薬剤です。洞調律に働く薬剤ですので心房細動には使用できません。
HFpEFとは心拍出量が保たれているが、心室の拡張障害があり、肺へのうっ血が生じ心不全を併発してしまうものです。学会でも毎回取り上げられるホットな話題ではあるのですが、今のところ有効な薬剤がないという厳しい現状があります。
ただしHFrEF(心拍出量が低下した心不全)の予後は段階的に悪化していくという観点から非常に悪いのに比し、HFpEFでは時々入院治療を要する程度で予後は比較的良好です。
HFpEFにおいてもサムスカは有効とされています。
肺動脈圧をモニターしながら利尿剤の調整をこまめに行うなども治療も試みられていますが、まだ、実験段階といるでしょう。
最新の話題として、マイトラルクリップや左心房の負担を改善するために心房細動シャント作成デバイスが臨床応用されています。
また、重度の心不全にはHeart Mate3という、補助人工心臓が進化しており、日本のように心臓移植までのつなぎというよりは、欧米において一生、器具を装着したままで長期の生存が得られています。
2019/12/5 横浜にて
肺がん病変を見落とさないための胸部X線写真の読影テクニックの解説と演習
胸部レントゲンの読影演習プログラムです。今回、学んだものはJ・A・L 式読影法でした。
何度も同様のプログラムで研修を続けてきておりますが、目にとまらないようなごく微細な変化がCTを撮像すると癌であったりすることが多く、『これをひっかけるかなー』と驚愕の3時間でした。
レントゲン診断の限界をしり、日頃の読みをもっと厳しく、おかしいとおもわれるものは積極的にCT撮像を行うなどの姿勢が必要と感じました。
2019/9月には新横浜プリンスにて2日間詰め込みで寺子屋式の講習会に出ましたが、読影の解釈、病理との対比、病態生理など深く学ぶことができ、非常に有用な講習会でした。
繰り返し学び、実際の経験を積み上げて、自信・確信へと変えていくことが医学道の本筋だと考えています。
2019/11/30 新横浜にて
神奈川肝疾患MEETING
B型肝炎治療中の肝がんリスク評価
B型肝炎は抗ウイルス治療により良好にコントロールされるようになりました。
血中の肝炎ウイルスは検出感度以下となり、肝機能は正常化して、肝炎の炎症は消退し、肝硬変への移行および肝がんの合併という最悪のシナリオを経ることは少なくなりました。
しかし、肝細胞内に肝炎ウイルスは潜んでおり、知らないうちに悪さをすることがあります。
肝がんの発症は激減したとはいえ皆無ではなく、肝炎罹患者は依然として肝がんのハイリスクといえます。
肝炎治療の長期目標としては、HBs抗原の陰性化があげられます。
短期目標としては、ALT<30、HBVDNA陰性化、HBeセロコンバージョンです。
発癌リスクの多いグループは、40歳以上、男性、飲酒者、肝がん家族歴のあるものです。
最近のマーカーとしてHBcrAgが注目されています。
HBcrAgはHBV複製と相関があり、セロコンバージョン後もHBcrAgが高いと肝がんの高リスクとなります。
C型肝炎撲滅を目指して-SOFレジメンの可能性
本邦においてはC型肝炎はほぼ根絶状態で、当院においてもいまだにウイルス治療を受けておられない方はごくわずかとなりました。(当人の無理解、超高齢など)
最新の治療ではわずか8週間の内服治療でほぼ100%の患者さんが治癒する時代となっているのです。
ところが薬剤が非常に高価であり、諸外国では本邦のような肝炎給付制度がないため、特に発展途上国では治療を受けられるものはわずか数%という現状があります。
外国では新規患者が170万人もおり、20-30歳代に新規患者が多く、麻薬使用などを介しての感染が大きいといえます。
リスクの高い因子として、若者、男性、薬剤使用者、HIV感染、同性愛者、アルコール依存症などがあげられます。
医療施設へのアクセスの悪い諸外国では1回の受診でウイルス陽性で治療適応と診断→8週間分の抗ウイルス薬処方→数ヶ月後にウイルス陰性化の確認の検査というように、負担の少ないシンプルな診療体系が試みられています。
C型肝炎は代償性肝硬変でも治療が可能です。
さらに、最近では非代償性肝硬変症にも治療できるようになりました。
(それぞれ適応できる薬剤がことなり、諸条件をクリアしなければなりません)
肝硬変でも肝機能、肝予備能、蛋白合成能などが改善して、予後がよくなることが証明されています。
一方、非代償性肝硬変にトライすると、食道静脈瘤の破裂でひどい目になったとか、肝不全に陥ったとか、問題のあるケースが多いようです。
非代償性肝硬変の場合には内科的に代償期までのコントロールが可能な範囲ものを選択して行った方がよいと考えられ、超専門施設に依頼して入院の上で慎重に行われるべきでしょう。
2019/11/15 横浜にて
内科医も知っておきたい口腔粘膜疾患
歯科口腔外科の先生より多くのスライドを見せていただきながら、様々な口腔疾患について学ぶ機会を得ました。
今回と特に口腔内癌についての詳細な解説がありました。
口腔内癌には様々な種類があります。
舌癌、歯肉癌(上顎・下顎)、口腔底癌(口底癌)、頬膜上皮癌、硬口蓋癌などです。
このうち最も多いのは舌癌です。次いで歯肉癌・頬膜癌・口底癌が続き、硬口蓋癌は少ないです。
口腔癌は全癌の1-3%をしめます。ところがインドでは全癌の20-30%にも認められ、特に男性に多いです。その理由はかみタバコの週間や口腔内の不衛生があげられ、やはり、慢性炎症が癌の原因として大きな要因となっています。
飲酒者で5倍、喫煙者で7倍、両者を嗜好するものでは15倍の発症率です。
アフタと癌との鑑別としては、舌癌の場合、硬い硬結が触れること、そして2週間程度のケナログ塗布などによる治療で治癒しないときに疑われます。
口腔癌の初期は小さなアフタであったり、発赤のみでわかりにくいのですが、食道癌の診断と同じく、ヨードを散布するとそこだけ白く染色されないためわかりやすいです。
前癌病変と言われる白板症は1-5%が癌に変化するため注意が必要です。経過観察よりは切除が望ましいといえます。
歯肉癌は歯槽膿漏と診断され、抜歯された後に傷が治らずこじれてから診断されることが多いとのことです。パノラマ写真をしっかり評価すれば骨融解像がみられ、診断可能です。安易に抜歯してしまうと、診断の遅れのみでなく、病変が拡大したり、転移のリスクも高まるため、厳に慎まねばなりません。
歯槽膿漏的な症状に加えて、しびれなどの知覚鈍麻がある場合、開口障害がある場合は要注意です。パノラマ写真での骨融解像に加え、CTまで撮れば診断は可能です。
最悪の事態は、抜歯→治癒不全→掻爬→治癒不全でようやく専門施設へと紹介となり、かなり進行した状態で治療に難渋するという結末です。
そのほか、前癌病変としての扁平苔癬、内臓疾患からの転移、骨粗鬆症のビスホスホネート製剤による顎骨壊死、骨髄移植患者に生じるGVHD(移植されたリンパ球が生体を攻撃する)、カンジダ症、ヘルペス、天疱瘡、リウマチでメソトレキセート内服中の方に生じるMTX関連リンパ球増殖症など、多岐にわたる講演で大変勉強になりました。
2019/11/9 横浜にて
Cardiovascular Forum
薬剤性消化管粘膜障害への対策
従来のPPI製剤に比しボノプラゾン(タケキャブ)は早く・強く・持続的に安定して胃酸抑制に働くことがわかっており、胃酸分泌をしっかりと抑制することができます。
胃食道逆流症においては初期からの酸分泌抑制が高い治癒率や再発抑制に影響します。
心筋梗塞や脳梗塞の予防にアスピリンなどの抗血栓薬が処方されますが、適切な胃酸分泌対策を行わないと薬剤性潰瘍出血などで重大な事態となることがあります。
出血のため抗血栓療法を中止した場合、出血のリスクは減りますが、脳梗塞の合併などにより死亡率は高くなることがわかっております。
また、急性心筋梗塞の際に出血の合併症を生じたものは、年間の死亡率が3%から20%に跳ね上がることがわかっております。これは出血により2次的にいろいろな臓器障害を生じたり、抗血栓療法の中止により心筋梗塞の再発が生じるためです。
心筋梗塞でステントを留置した場合には抗血栓療法は必須であり、その際の消化管出血予防にPPIの併用は是非とも必要とされております。
薬剤性消化管出血のほとんどはPPIによる予防がなされていなかったものであり、適切な予防対策がとられていれば出血はほとんど見られません。
また、内視鏡治療時・手術時の抗血栓薬の中止の是非については、高リスクのものでは休薬を要するが、低リスクのものは休薬なしでよいとわれています。
ワーファリンはDOACに変更すれば治療当日の休薬で対応できます。
以前に施行されていたヘパリンブリッジは術後出血が増えてしまい、現在は勧められておりませんので注意が必要です。
遺伝性不整脈の最新のトピックス
QT延長症候群・Brugada症候群・早期再分極症候群などについての詳細なレクチャーでした。不整脈の一部はこのように遺伝子の異常により発症するものがあります。
若干、難しい話ではありますが、若年者の突然死にこのようなものがあるということは知っておいた方がよいでしょう。
詳細な診断は循環器専門のうち、特に先天性不整脈について専門的に研究している超専門医でなされます。
QT延長症候群
QT延長症候群はQT時間の延長、失神の既往および突然死の家族歴より診断されます。
水泳などの運動、睡眠中、目覚まし時計などの音刺激、妊娠時などに発症しやすいことがわかっています。
水泳教室での突然の死亡事故は患者家族・スポーツ施設双方に大変な不幸な出来事です。監視が不十分で溺れているのに気がつかなかった・初期蘇生が不適切だったというものだけではないのです。
遺伝子異常によるイオンチャンネルの異常が原因とされています。大きく3つの型に分類さえています。
女性ホルモンにQT時間を延ばす作用があるようで、成人ではほとんどが女性に発症します。ところが幼年期には男女同数で発症します。男性については成人後はあまり心配ないようです。
予防としては水泳やマラソンなどの運動を制限することが重要です。
また、目覚まし時計は危険であり、自然に目が覚めるようにする工夫が必要です。
治療には病型によりβブロッカーやメキシレチンが使用されます。
Brugada症候群
有名なBrugada症候群については、男性に多く、30-50歳の比較的若年の男性に睡眠中の突然死をおこすものです。いわゆる『ポックリ病』といわれるものに、Brugada症候群であったものが含まれていると考えられています。
診断は心電図によりなされ、1000人に1名程度が見つかりますが、そのうち心室細動などの致死的不整脈を生じるものは0.5-1%とされています。
致死的不整脈は心電図形態では1型(Coved type)に多いです。2型・3型(Saddle back)は比較的安全です。しかし、心電図を測定する位置を1肋間あげてとってみたり、サンリズムという薬剤を静注してとると、1型の心電図に変化することがあります。
突然死の危険があるものは睡眠時の心停止・心室細動・心室頻拍が見られたもの、夜間にうめいていることがある、引きつけのようになったことがある、失神の既往があるものなどです。また、突然死の家族歴があるものも危険です。
心室細動の既往・心停止の既往があるものは10%が再発するため、埋め込み型除細動器(ICD)の適応があります。
相対的適応としては失神の既往がある、家族歴がある、電気生理検査で容易に誘発されるもの、ポア領域遺伝子変異のあるものなどです。特に男性はリスクが高いです。
また、ICDの頻回作動は大変な不快感・恐怖につながりますので、その場合にはキニジンなどの抗不整脈薬で不整脈の発現を抑制する必要があります。
早期再分極症候群・J波症候群
この症候群では心電図にてQRS波の後ろにJ波と呼ばれるノッチが見られるます。
J波症候群は中年男性に多くみられ、心室細動から突然死をもたらす重篤な不整脈疾患です。
J波は健常人にも見られることがあり、危険群との層別化が大切です。
失神の既往および心臓突然死の家族歴の聴取が大切です。
また、J波の振幅の高い例、ホルター心電図でのJ波の日内変動、連結器の短い心室期外収縮・非持続性心室頻拍の有無の確認が必要です。
また、日をあたらためてのJ波の日差変動も見ていきます。
これらがなければ危険性は少なく精査の必要はありません。
植え込み型除細動器の明らかな適応は心室細動からの蘇生例のみです。
以上の話については、一般内科医レベルでは一部を除きほとんど理解されていない領域です。循環器の医師でも不整脈を得意とする医師が担当する領域です。
知っていないと痛い目に遭うかもしれません!!
ポックリ病の家族歴がある方は最低限心電図を受けましょう。
2019/10/31 海老名にて
湘南Diabetes Seminar
体液・電解質バランスや輸液の話など、生理学および薬理学の詳細な説明があり大変勉強になりました。
SGLT-2阻害薬は糖を尿へ排出する作用に伴い、水を体外に排出するため、従来の利尿薬とは異なる、マイルドな利尿剤としての働きがあります。
心不全の際は心拍出量が減り、腎血流が減少することにより、ナトリウムの再吸収が起こり、内臓の浮腫・臓器不全が生じるという悪循環に陥ります。
細胞内外から均等に水を引くため腎・肝・腸管などの内臓組織の浮腫が改善し、内臓機能・心機能が改善します。
SGLT-2阻害薬は腎血流の正常化、尿蛋白減少、レギン-アンギオテンシン系の抑制、心不全の抑制作用があります。
以上より糖尿病治療のファーストステップにSGLT-2阻害薬という選択肢が提示されました。
2019/10/28 藤沢にて
Next symposium 2019 in Kanagawa
1.世界に挑戦する日本の内視鏡AI
内視鏡診断にもAIが利用される時代となってきました。
コンピューターに何十万枚という画像を学習させることにより、内視鏡観察中のリアルタイムに『ピロリ陽性95%』というようにピロリ菌感染の有無についての診断がなされます。
ピロリ菌感染については治療後のものも拾い上げてしまうため、過去の治療歴の有無など病歴を含めた判断が必要であり、最終的な確定診断は尿素呼気テストや便中抗原などの従来と同様の手法が必要です。しかし、これにより今後の胃癌発症リスクが推察され、年に1回の積極的検査の適応の目安となります。
胃癌や食道癌についても人間の目ではギリギリ難しい微細な変化まで瞬時に拾う上げ『早期胃癌80%』というような診断がなされ、次の段階の内視鏡的治療へと導かれます。
特に数mm大の微細病変の場合、確定診断ための生検を行ってしまうと内視鏡的切除の妨げとなることがあり、生検を行わずに完全生検としての内視鏡的切除を選択した方がよいのです。
早期癌の深達度診断についても可能となってきております。
この技術革新は内視鏡検査がAIに取って代わられるというものではありません。内視鏡医の診断とAIの診断との協調が必要です。
どんなに優れた内視鏡医であっても、微細病変については診断できないこともあります。このような『見落としとはいえない診断可能限界以下の病変』に対してもAI診断が可能であり、内視鏡検査の精度は大幅に改善されます。
内視鏡医がAIと対峙するのではなく、AIをうまく利用することにより、内視鏡医とAIのダブルチェックが可能となるのです。
なお、本講演では触れられておりませんが、大腸内視鏡検査では内視鏡検査において細胞レベルまでの超拡大観察が可能となってきており、内視鏡的顕微鏡検査も可能となっております。その際にもAI診断が利用されています。
2.令和でも重要な酸関連疾患の治療
酸関連疾患の代表は胃食道逆流症・逆流性食道炎であり、PPIが治療の主役であることは間違いありませんが、一部には十分に有効でない場合もあり、その場合にはPPIの種類を変える、倍量投与とする、分割投与とする、空腹時内服とするなどの工夫が必要です。
PPIは数種類存在しますが、代謝経路の違いにより、効きが違います。また、個人の体質により効かない薬があることもわかっております。
PPIは空腹時の方が吸収がよく、食前投与が望ましいとされています。
また、他疾患の鑑別が必要なこともあります。最近は好酸球性食道炎が注目されています。この場合は食道に立て溝が生じるなど特徴的な所見があり、PPIに局所ステロイドとして喘息に用いる吸入ステロイドを吸入して飲み込むという治療が行われています。
Functional dysplasia(FD;機能性胃腸症)も注目されており、症状による分類がなされ、もたれなどの機能的異常を主とするものと、痛みを主にするものとがあり、PPIも一部の症例で有効です。
また、ピロリ菌の関与もあり、除菌により改善することもあります。
これをHP associated dysplasia(HP関連ディスプレジア)といいます。
除菌は胃癌の発症抑制や内視鏡治療後の2次癌の発症予防効果があり、ピロリ感染が確定したら、確実に除菌を行い、除菌後も胃癌発症リスクはピロリ陰性者よりも高いため定期的な内視鏡検査が必要です。
なお、ピロリ菌の感染経路はこれまでは幼少期に母親から感染したとされていましたが、近年の感染経路としては逆流性食道炎を有するパートナーとの接吻などの濃厚接触によるものが推察されております。その意味でも逆流性食道炎およびピロリ感染は適切に治療することが望まれます。
2019/10/16 横浜ベイシェラトンにて
3.多様化する心房細動患者のそのゆくえ
心房細動の重大な合併症である脳塞栓症の発症リスクは、心不全(1点)、高血圧(1点)、年齢(75歳以上で1点))、糖尿病(1点)、脳梗塞の既往(2点)の有無により増多していき、2点以上スのスコアにて抗凝固療法の積極的適応となるとされてきました。
0-1点のスコアでは脳塞栓症の発症が1%未満であるため治療の有益性があまりありません。
しかしながら、これら危険因子の定義に関しては不明確な部分があります。
心不全では拍出量の低下したものほどリスクとなりますが、心拍出が保たれている心不全(HFpEF)はリスクとはなりません。
高血圧の病名があってもきちんとコントロールされている場合にはリスクとなりません。
糖尿病の場合、食事療法のみの軽症者からインスリンを要するような重症者まで、その定義自体が曖昧ですが、3年以上罹患したものでなければリスクとなりません。
初診時のスコアにて治療の適否を判定しておりますが、治療によりスコアが下がる場合もあれば、年齢が上がるほどにスコアが上がりリスクが増していきますが、再評価がきちんとされているとは限りません。
治療は脳塞栓症の発症と治療に伴う出血合併症のバランスにより、メリットをよく考えて行う必要があります。
また、高齢化により心血管病以外の死亡が多くなり、脳卒中や出血による死亡割合が減ってきます。認知症の合併、感染症、転倒なども多くなり、癌死、心不全、感染が主な死因となってきます。
死亡リスクの検討では年齢(75歳以上)、腎機能低下、癌の合併が大きな要素となってきます。
そのうち腎機能の低下はeGFRで評価されますが、認知症の合併やフレイルの進行などと関与しており、eGFRが30%以下となると全死亡および非血管死の割合が急激に増えてきます。
eGFRが60以下ではアブレーションの成績が低下し、40以下ではほぼダメです。
eGFRはその絶対値のみでなく、低下速度が生命予後に影響してきます。
これらを踏まえ
eGFR60以上ではアブレーションを積極的に考慮する。
eGFR45-60では脳卒中・心不全の割合が増える。
eGFR30-45では超高齢者が多く非血管イベントや大出血イベントが増える、そのため抗凝固療法や抗血小板薬との併用には慎重となる。
eGFR30以下ではイベントがイベントを呼ぶドミノにおちいり予後はきわめて不良であり、治療群の方がむしろ脳卒中・出血のいずれもが多かったとのことです。
DOACの減量群については死亡率が高く、しかも非血管死が多いことがわかっています。
DOACは減量基準をきちんと守らないと、有効な血中濃度が得られず危険なのですが、それでも減量されているのは担当医が減量して処方したくなるような病状の悪い患者であったという意味合いもあります。
以上のことを踏まえて抗凝固療法の適応やアブレーションの適応を考えていく必要があり、心血管病以外の様々な合併症に注意していく必要があります。
eGFRは患者の生命予後を予測する非常に有用な指標であり、臨床医はこの指標をしっかりと利用しながら、心房細動をみていくことが望まれます。
以上の詳細な内容については『CKD冒険記』という本に詳しく記載されています。
2019/10/8 横浜ベイシェラトンにて