咳が長引いている、咳き込んでしまい眠れない!
あなたの咳、咳喘息ではないでしょうか?
風邪で咳が長引くことはよくありますが、以下の項目に当てはまる場合は、喘息の可能性が高く要注意です。喘息といってもゼイゼイとする定型的喘息とは異なりますので『咳喘息』という診断名が用いられることが多いです。
喘息の場合には風邪や気管支炎とは治療法が異なりますので、これまでの治療を続けていても咳はなかなか治まりません。
小児喘息の既往がある
以前に喘息ではないかと言われたことがある
家族に喘息の人がいる
ゼイゼイしたことがある(喘鳴といいます)
風邪をひくと咳が長引いて、なかなかなおらないことが多い
咳がでだすと止まらない、咳き込んでしまう、空咳で痰が出ない
痰がへばりついているような感じがして咳をしたくなるが痰は出ない
息がしっかりできない感じで、呼吸が苦しい感じ、違和感がある
熱はなく、咳が出ないときは元気に過ごしている
空気の変化など、食事などちょっとしたきっかけで咳き込みがはじまる
入浴中は咳が出ないでスカッとしている
風邪薬や鎮咳剤がきかない
これらの症状の方は『咳喘息』の可能性が高いといえます。
長引く咳嗽、苦しい咳き込みでクリニックや病院を受診する方の多くは、『咳喘息』の可能性があります。
風邪や気管支炎の診断で、鎮咳剤・去痰剤・抗生剤などが処方されても、いっこうに改善しない、咳き込みがひどい、呼吸が苦しい感じがある、咳き込みのために夜眠られず座って苦しい一晩をすごすなど、長引く咳に苦しんでいる方が多く受診されます。(最近では呼吸が苦しいとコロナウイルスではと心配される方も多いですね)
このような方たちが喘息の診断にたどり着くまでに、数カ所の医療機関を受診されている場合も少なくありません。その原因として患者さん側や医療者側にもいくつかの誤解があります。
#1 小児喘息はなおる病気であるとの誤解。
喘息は慢性の病気であり、遺伝子が発病に関連しているためいったん喘息と診断された場合は、その方は一生喘息です。ただし、小児喘息のように一時的に症状がなくなることはあります。また、成人喘息の場合でも、ステロイド吸入で症状のコントロールが可能になりますが、喘息が治るわけではないので、治療を中断すると再発をくりかえします。
#2 喘息の症状はゼイゼイすることで、咳は喘息の症状ではないとの誤解
喘鳴があり眠れないほどに呼吸が苦しいとなれば疑いなく喘息です。しかし、実はこの喘鳴で診断されるよりも、咳の症状から喘息の診断につながることの方が多いのが現実です。特徴は空咳で痰が出ないことです、そして、息をするのが苦しい感じ、つまっているような違和感を伴います。乾性咳嗽は喘息のメインな症状なのですが、なかなか理解が得られないのが現状です。
吸入薬を試みると15分程度で呼吸がスーっと楽にまります。この場合は、喘息で確定なので長期的な治療の継続が必要なのですが、症状が治まると治療中断、予約の無断キャンセルという事態がしばしば生じます。
#3 風邪の咳はながびくと思い込む誤解
感染後咳嗽といって、感冒後に最大2か月までは咳が長引くことがありますが、めったにはないことです。その後も年に、2~3回と長引く咳がある場合はその経過だけで喘息を強く疑う必要があります。一般的に風邪症状は10日を超えないのが原則です。1ヶ月以上持続する咳嗽は喘息が原因であることが多いです。
#4 なんでもかんでも『咳喘息』は間違い
そのほかの原因としては、膿性痰、後鼻漏(喉におりてくる膿性痰)、姿勢の変化などで膿性痰がはき出される場合は、副鼻腔炎の可能性が高いです。副鼻腔の炎症が強い場合には頬部に腫脹・疼痛がでて、頭痛・微熱を伴うことがあります。痰が肺に落ちることが繰り返されると、咳・痰が出るだけでなく、副鼻腔気管支症候群、気管支拡張症など移行し、肺に病変が生じてしてしまうことがあります。
副鼻腔炎の場合には抗生剤での治療が必要で、状況により数ヶ月にわたる長期的治療を要することも多いです。膿の貯留が著しい場合には内視鏡を用いての手術的治療を要することがあります。
そのほかにも逆流性食道炎で胃酸の逆流が気管を刺激して咳が出るもの、アトピー咳嗽、慢性閉塞性肺疾患、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、間質性肺炎、など様々な疾患が関与していることがあり、胸部レントゲンでの診断は必須であり、CTを要することもあります。
#5 診断には様々な検査があるが、それほど信頼がおけるものではない
呼吸機能検査も有用ですが、咳き込んでいる最中にはあまりよい検査ができなくて評価困難なことも多いです。
喘鳴がない場合の呼吸機能検査はあまり異常が出ないことも多いです。
呼気NO検査という好酸球の関与をみるものもありますが、あまり感度がよくなくて決め手にはなりません。
血液中の好酸球、総IgE、各種抗原に対する特異的IgE検査はある程度参考になります。
かわいがっていた猫が亡くなってしまったら、喘鳴がすっかりとれたという例もあります。
過敏性肺炎といって住居環境が悪く、転居したら改善したという例などもあります。これらは吸入抗原に対する反応であったと考えられます。
最近の話題として、喘息(Ahtuma)と慢性閉塞性肺疾患(COPD)が合併(Overlap)している例も多くなってきました。Asthma COPD Overlap(ACO)とよばれています。
この場合は、喘息の吸入薬とCOPDの吸入薬を計3剤組み合わせる必要があり、やや複雑でしたが、この3剤が1本ですむ薬剤がでてきて、利便性が高まっております。
咳喘息を見落とさないことが重要です。しかし、なんでもかんでも咳喘息ではありませんので、この点も誤解のないようにお願いいたします。
喘息は治癒することは困難ですが、的確な診断と適切な治療の継続で症状のない生活は送れます。
症状が落ち着けば1日に1吸入するだけの吸入薬を継続することにより元気な生活が送れます。
フィギュアスケートの羽生選手、スピードスケート金メダリストの清水さんも喘息でしたが、きちんと治療を継続しているとお聞きしております。
いつでもお手伝いいたします。頑張りましょう。
2020/3/5
長引く咳嗽について
「咳喘息」という病気は本当にあるのでしょうか?
長引く咳嗽、咳き込みがあり、苦しくて夜も眠れないと訴え受診する患者様が多くおられます。喀痰はさほどではなく、膿性痰は出ていません。また、喘息のようにゼイゼイということもありません。このような方に『咳喘息』という診断名がしばしば用いられます。
一般の方にも周知されており、喘息へ移行することもあるという警鐘も込めて私もこの診断名を用いていることが多いです。しかしながら、長引く咳『はたして本当に喘息なのか?』という疑問を持ち続けています。
長引く非感染性の咳の大部分は吸入ステロイド、あるいは吸入ステロイド+気管支拡張薬の合剤、症状の強いものについては短期間の内服ステロイド併用でおさまります。
吸入ステロイドの処方は、咳がおさまった時点で終了すればよく、長々と吸入していただく必要はないと考えています。
咳嗽患者の典型例をあげてみましょう。3週間以上続く咳を訴えて30歳代の女性が受診、はっきりとしたきっかけもなく始まり、風邪として治療されていましたがなかなかおさまらず、特に安静時や夜間などに激しく咳き込んでしまい眠れない。日常の会話や冷房の風などで誘発される。仕事にも支障が出ており何とか治してほしい、というような訴えで受診されます。喀痰はありません。アレルギー歴は様々です、最近は花粉症が激増しています。
このようなときは、感染さえ否定できれば、吸入ステロイド剤で対応したいところです。しかしガイドラインでは咳喘息という厄介な病気かもしれない。そうかどうかを見極める方法は、気管支拡張薬を処方して効くかどうかをみることで効くようなら咳喘息、気管支拡張薬が効かなくて抗ヒスタミン剤および吸入ステロイドが効いたならばアトピー咳嗽ということになります。どちらにも吸入ステロイドが有効なのですが、その前に両者の鑑別をしておく必要があるということになっています・・・
なぜそんな面倒なことをしなくてはならないのでしょうか?
咳喘息はかなりの確率で本物の喘息に移行する病気なので、ぜひ診断しておくべきだというもので、さらに、咳喘息の場合は、吸入ステロイドを1年間は続ける必要があるとしています。
そうはいっても症状が改善している患者を1年間も通院させ、吸入ステロイドを継続させろと言われても現実的には無理な話です。
実際のところ、吸入ステロイドで咳がおさまった患者で、咳が再発する人は1~2割程度で、その場合も吸入ステロイドを再度用いれば改善します。はたして難治性喘息に移行した患者がいただろうかと疑問に思っています。
喘息に移行するとの根拠として引用されている報告では、吸入ステロイドを使用した群では喘息への移行が少なかったというものです。それなら最初から吸入ステロイドを投与すれば、それで済む話ではないでしょうか?
私は患者に、眠れないほどに激しい咳かどうかを尋ねています。眠れないという方には、プレゾニドロン30mgを1週間、それに重ねて吸入ステロイドと気管支拡張薬の合剤を2週間吸入していただきます。眠れている方には吸入薬で対処しています。
吸入薬は苦しいときに追加吸入できるタイプのものを処方しています。
患者様には炎症で気管支が過敏になっているようです。それを鎮めるために喘息に使われている吸入ステロイドを処方します。14日間くらいで咳はおさまると思います。おさまってきたら、すぐに吸入薬を中止するのではなく、再燃がないことを確認しながら徐々に減量中止していきましょうとお話ししています。
2019/9/26
肺炎球菌ワクチンによる肺炎予防について
肺炎球菌ワクチンが65歳以上の高齢者に推奨されています。
ワクチンの接種により感染が予防できるのみでなく感染した場合には重症化を抑制できるなどのメリットがあります。
ワクチンには沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13:プレベナー13)と23価肺炎球菌多糖体ワクチン(PPSV:ニューモバックスNP)の2種類があります。
プレベナーはすでに新生児の肺炎球菌性髄膜炎の予防に大きな力を発揮しております。新生児にも打てるのですから安全性は高いといえます。
ニューモバックスは65歳以上の方に公費補助のもと接種がおこなわれており、すでに接種を受けた方も多くおられます。
プレベナーはT細胞を介して高い免疫応答を誘導し免疫記憶を確立する、新しい作用機序を有する肺炎球菌結合型ワクチンです。
一方のニューモバックスも非常に有効なワクチンですが、5年で効力が切れてしまい、5年後に2回目のニューモバックスを追加しても十分な免疫が得られません。
したがってプレベナー→ニューモバックスの順にワクチンを接種した方が、より効率的に強力な免疫が得られることがわかっています。
実際にプレベナーを接種して1年後にニューモバックスを追加すると、抗体価の上昇が確認されています。
すでにニューモバックスの接種がすんでいる方については、1年経過したところでプレベナーを追加して、さらに初回のニューモバックスから5年をあけて2回目のニューモバックスを接種するのがよいとされております。
肺炎球菌ワクチンをうまく接種することにより、より有効な効果が得られ、肺炎の発症および重症化が抑制されます。
以上の投与法については、米国予防接種諮問委員会、日本感染症学会・日本呼吸器病学会合同委員会で推奨されております。
本邦の行政ではニューモバックスの単独投与のみを公費負担として後押ししている形となっておりますので、プレベナー→ニューモバックスの連続接種は普及しておらず、一部の専門性の高いクリニックでのみ、実践されております。
当院では最良の医療を目指しており、肺炎球菌ワクチンにおきましても、プレベナー→ニューモバックスの連続接種を実践しております。
2019/10/1
咳が長引く方へ