鎌倉逗葉認知症フォーラム
認知症の予防と治療について
国立長寿医療研究センター 遠藤 英俊 先生
認知症についての講演会に参加してまいりました。
演者の遠藤英俊先生は認知症診療の第一人者であり、講演内容も非常にわかりやすく優れたものでしたので、ご紹介いたします。
これまで認知症について多くの講演を聴いてまいりましたが、今回の講演は最も実践的で有用でした。
65歳以上では認知症リスクが急増します。
また、軽度のもの忘れ程度であるMCI(mild cognitive impairment)は400万人おり、年間10%が認知症に進展していきます。
その意味で認知症への進展予防と早期発見および早期治療は非常に重要です。
診断においては長谷川式簡易知能評価スケールが有用ですが、忙しい外来診療のなかでかなりの時間が割かれます。
また、MRIや脳血流シンチなどの画像診断も必要です。
MRIでは海馬の萎縮が特徴的です。
一方、血管性認知症では脳梗塞/脳出血の痕がみられたり、脳血流シンチで脳血流の不均衡がみられます。
レビー小体型についてはMIBG心筋シンチが有用です。本来は心臓の検査ですが交感神経機能の低下がわかり、レビー小体型認知症ではほとんど取り込まれません。
パーキンソンの合併も多く、DATスキャンが有用です。
運動や知的活動およびバランスのとれた栄養は認知症の予防に効果があります。
脳にアミロイドが沈着すると認知症が進行しますが、動脈硬化があると悪化しやすいことがわかっています。運動をしたり頭を使うこと、また、生活習慣病の治療など動脈硬化対策が認知症予防に重要です。
運動療法としてはウォーキングに知的活動を加えたものがよく、ゴルフなど運動と知的
活動を含めたものが有効です。私はご高齢の方々とテニスをする機会が多いのですが、明らかに認知機能の優れた方たちが多いことを実感しております。運動しながら瞬時の判断が求められ、戦略を考えたり、カウントもしなければなりません。体も頭も使います、認知症予防には最適と思っております。
講演のなかでは読書、楽器、ゲーム(麻雀など頭を使うもの)、社交ダンスもお勧めとのことでした。社交ダンスでは運動のみでなく『ときめき』もあるからとのことでした。
食事ではビタミンC、E、βカロチン、DHA/EPA、ポリフェノール、地中海料理(オリーブ油)、ウコンに含まれるクルクミンがよいとのことです。
遠藤先生はカレーライスを週に数回食べることによりウコンを摂取して自らの認知症を予防されています。自らレトルトカレーを開発して商品化したとのことですので驚きですね。
脳へのアミロイドの沈着を減らす抗アミロイドβモノクローナル抗体(Aducamumab)が開発されており、今後、軽症の認知症の進展予防に認可される方向にあります。
現在の治療薬は神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを強める薬(アリセプト、レミニール、リバスタッチ/イクセロン)と脳神経細胞の混乱を抑える薬(メマリー)の2系統があります。
前者はもの忘れに加え、うつ、不安、無関心など精神活動の低下した状態に適しています。
まれに徐脈が生じることがあり、心電図などの循環器的なチェックが必要です。また、容量の増多に伴い易怒性・攻撃性が増すことがあり、容量調整に注意が必要です。
この場合にメマリーを追加するとうまくコントロールできます。また、漢方薬の抑肝散もよく併用されます。周辺症状が著しい場合には向精神薬の併用を余儀なくされる場合もあります。
リバスタッチ/イクセロンはアリセプトに比し副作用が少ない傾向にあり、食欲が増すという副次的効果があります。貼付剤であり皮膚掻痒の問題がありましたが、製剤の改良がみられています。
レミニールは半減期が短く1日2回の内服を要します。効力はマイルドであり、その分、副作用は少ないので容量調整がしやすいといえます。
メマリーは易怒性や攻撃性に有効です。
アリセプトなどにて易怒性や攻撃性が生じたときには、メマリーの併用が有用です。また、アリセプトなどで治療効果が不十分なときには早期に併用することにより認知症の進展を遅らせることができます。
認知症の治療はもの忘れが治るわけではなく、その進展を遅らせるものなので、ご家族にしてみればなかなかその効果が理解できないかもしれませんが、多くの患者様を診させていただいている立場では、その効果は明らかです。
治療効果を確認しつつ容量調節・薬剤の併用、周辺症状に対する治療を行っていかなければならず、ご家族に対するケアにも多くの時間がさかれます。
2020/2/17 鎌倉にて
認知症の診療について
もの忘れが多くなった、認知症なのでは?、詳しく調べてほしいなど、認知症についての診断・治療を受けたいとのご要望が急速に増えております。
これまでは本人に自覚がないまま、ご家族が付き添って連れてきて、認知症とはいわないでうまく検査・治療してほしいというようなことが多かったです。
最近は早期治療の必要性について認知されつつあり、ご自分で診察を希望する方も増えてきております。
認知症の診断は難しいとお考えでしょうか?
ご本人やご家族が認知症ではとお考えになるほどですので、私は認知症を特別なものとする必要はない考えております。
認知症の診断の第一歩は問診です、簡単なテストとして『長谷川式』があります。そのほかにもいくつかの診断テストがありますが、どれも一長一短であり、理想的なものはありません。実際はちよっと話をすればわかります。ご家族からの情報も重要です。
ただし、通常の内科診察の中で『調子はいかがですか?』程度の問診をしていると、うまいこと話を合わせることができるのがこの病気の特徴であり、気をつけて診ていないと見逃してしまうことがあります。
その意味では『長谷川式』は便利だと思います。ただし時間がかかるのが難点です。
もの忘れの特徴としては、直近の記憶がスッポリと抜けてしまうというのが特徴です。
朝ご飯に何を食べたのかを覚えていないという程度のものから、食べたこと自体を覚えていないというものです。
診察の日に今日はどこに行くのかと、何度も同じことを聞いたりします。
ひどくなると親戚の人が訪ねてきていろいろと話をしていたにもかかわらず、『いまきていたひとはだれだ?』なんてこともあります。
散歩に出かけて帰り道がわからなくなり迷ってしまうこともあります。
何度も同じことを聞くので家族の方がイライラとして喧嘩になってしまったりします。
さらにひどくなると自分でしまった財布のありかがわからなくなり家族を疑って怒ったり、暴言、不潔行為、昼夜逆転、徘徊なども見られるようになります。
診断の上で大事なのは根本治療可能な原因による認知症を見逃さないことです。
甲状腺機能低下症でボーッとしている方もあります。
正常圧水頭症という治療可能な病気もあります。
これらの疾患を見落としていたら、最悪ですね!
画像検査の基本は脳MRIです。海馬の萎縮が特徴です。
脳血流シンチグラム、DATスキャン、心筋シンチなどが有用のこともあります。
アルツハイマー型認知症の場合、使える薬は4種類であり、それぞれの特徴を理解した上で、個々の患者さんにとってより有用なものを、適切な量で使用していきます。
2種類の薬を併用したり、周辺症状(行動心理症状)に対して向精神薬や漢方薬を用いることもあります。
アルツハイマー型認知症以外にレビー小体型認知症など、認知症にもいろいろな種類があります。これらの鑑別は比較的容易です。
認知症の治療は、個別治療であり一様ではありません。
なんども診察を繰り返しながら、ベストの治療を探っていきます。
治療薬は認知症をてきめんに改善させるものではなく、その進行を止めていくものです。
そのため、しばらくは効いているのかどうかがよくわからない状況が続きます。
長期的には落ち着いた状況になり治療の有効性を感じることができます。
超高齢化社会をむかえ、認知症の診療はかかりつけ医には避けて通れないものとなってまいりました。
これからも患者様やご家族に寄り添い、認知症診療に力を入れていきたいと考えています。